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第7話

 逃げるようにオカルト研究会の部室を去り、気の入らないまま文化祭の終わりまで過ごすと、冬夜は一人もやもやしたものを抱えながら帰路につこうとした。  一誠はあの大学内でも有名だった。やはり初めこそあの美貌と優秀な頭脳から、教授たちにも目をかけられ校内の学生たちからの人気を集めた。しかし、誰も入らなかったオカルト研究会を復活させたかと思ったら、後は冬夜がよく知るような儀式か実験か境目の分からないような奇行を繰り返し、すっかり大学の名物変人して名を馳せているらしかった。  気になったのは、とある同校の男子学生から聞いた『甘崎一誠変人伝説』の話の一つ。 『あいつ、たまに大学の校舎内にある森で、気味の悪い置物と、実験道具を置いて何かやってるんだよ。UFOとの交信か、はたまた地獄の釜でも開けようとしてるとか。おかげで最近、あそこらへんはうちの学生もだーれも寄り付かなくなっちまったよ。迷惑な話だ___』  一誠の変わらなさに苦笑が漏れたが、冬夜はその話が特に気になって仕方がなかった。  あの、オカ研の部室で見た可笑しな蝙蝠のミイラ。あれを思い出すたびに冬夜の背筋に激しい悪寒が走る。何故か冬夜には、あの蝙蝠がかのようにすら思えたのだ。 「誰も寄り付かなくなった、大学の森…」  冬夜は大学祭のパンフレットの中にあった地図を思い出した。地図には校舎全域の案内が書かれており、それにはのどかな自然、バードウォッチングなどが楽しめる散歩道がある森林エリアが描かれていた。その森林エリアは、オカルト研究会の部室があった建物の近くにあり、一誠が近場のあそこを個人的な実験場にしていることは想像に難くなかった。 (甘崎……)  また、蝙蝠が頭をよぎる。魔界。魔術店。古文書。異次元の存在。いつものオカルト話の盛り上げ要素が、何故か現実感を伴って冬夜に畏怖を起こさせる。自分はいつからオカルトを信じるようになった?と冬夜は自嘲する。 「…そういえば、甘崎とは連絡先も交換してないな…折角、友人に久々にあったんだもんな…」  言い訳をするように冬夜は呟くと、まだ人気の残っている大学構内へと足を戻していった。

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