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第8話

 散歩道とされているだけあって、道の端には一定間隔で小さな電灯が灯っている。大学祭の夜なのだからカップルの何組かは歩いていても良さそうなものなのに、辺りには冬夜以外の誰もいなかった。まさか本当にあの噂で人が寄り付かなくなっているのか、それとも、皆大学の広場で行われている後夜祭に集中しているのか。  一誠の一友人としての立場として、是非とも後者であってくれと祈りながら灯りに仄かに照らされた道を歩いていた。  そもそも、冬夜の期待通り一誠が本当にこの辺りにいるかも分からない。案外後夜祭に元気に参加しているかもしれない。そうならば、冬夜はただ大学祭を楽しんだ後、森林散歩をただ楽しんだ思い出だけで1日が終わる。連絡先は、またの機会にすればいい。住んでいる地域はそう遠くないのだから、いつか会うこともあるだろう。 (だから、頼む…甘崎。どうか噂のようにこの場にはいないでくれ)  ガサガサッ、と地面に敷き詰められた落ち葉が踏まれる音が遠くで響く。散歩道は綺麗に舗装されており、この道を歩いていたならこんな音は鳴らない。  木々の向こう側、ほんのり小さな灯りがゆらゆらと彷徨っているのを見た。 「……!」  冬夜は息を飲み、そしてゆっくりと道から外れその灯りの方を追っていった。 「ーーーー、ーー、ーーーーー、ーーー」 (甘崎!)  落ち葉の絨毯の上には、昼間にみた蝙蝠のミイラ。ガラスケースに閉まったまま、同じく昼間に見せてくれた古文書のコピーを持った一誠の足元に丁寧に置かれていた。 (うっ…!!また、だ…)  ズキズキと頭に鈍痛が走り始める。昼間も感じた、あの蝙蝠に対する謎の嫌悪感。冬夜には、これが気味の悪いものに対する生理的な恐怖などとは少し違うような気がしていた。  一誠が手に持っていたのは、複数の小さなキャンドル。それを、一誠とガラスケースを囲う円のように置いていく。揺らめく光はそのキャンドルだった。  そして、円の外側にはビデオカメラ。それと冬夜には良くわからない複数の観測機器。  キャンドルを置く一誠の瞳には、ただ真剣な色が宿り、これがただのオカルト趣味からの儀式ではなくであることが見て取れた。  

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