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第9話
「甘崎」
水を差すようで申し訳なかったが、冬夜はこの嫌悪感に嫌な予測を覚えて一誠を引き止める選択をした。すると、今まで真剣に準備を行なっていた一誠が、突然名前を呼ばれたので驚いたように冬夜の方を振り返った。
「東雲!?どうしてここに…」
「…夜の散歩だよ。甘崎こそ、後夜祭には参加しないんだな」
すると一誠は悪戯がバレてしまった子供のような、無邪気な笑みを浮かべた。
「実験をやろうと思ってね」
「昼間言ってた…魔界の扉の儀式のことか」
「そうだ。物事の証明には、何度も実験を繰り返さなくては」
そう言いながら一誠はなんてこともないように手に持った瓶の蓋を開け、何かの図形を描くように注いでいく。薄暗い中でもなんとなくその色合いを察することができて、冬夜は恐る恐る尋ねた。
「その液体…まさか血、か?」
「まさか。血液の代わりに、血液とほぼ同じ成分を配合した混合液。前回もこれで成功したから、今回もこれを使う」
「あの蝙蝠の死骸が出てきたっていう儀式と同じ…?」
「ああ。前回より、規模を少し豪華にしたがね。儀式の規模を大きくすれば比例して扉も大きくなると言うのなら、これで扉は開くはずだ」
「な、なあ。その儀式、今日はやめにしないか?」
「どうして?」
「嫌な予感がする」
「ふうん…人の直感っていうのは、案外侮れないからね…もしかしたら、今夜もっと、もっとすごいことが起きる可能性だってあるかもしれないということだね」
「いや、これ本当にマジなんだって」
「ああ東雲それ以上踏み込んだら折角描いた陣が…!」
一誠が制止するのも厭わず、冬夜はフラつきながら彼曰く『陣』の方へと近づいた。
___すると、不思議なことに陣の周りに飾っていたキャンドルに灯った火が一斉にかき消えた。
冬夜と一誠が同時に声を上げる。片方はやってしまった、というように。そしてもう片方は心底焦ったように。
「あっ火が…」
「まずっ…儀式が…!」
血液を模した混合液で描いた『陣』がルミノール反応のように、暗闇の中に薄く淡い光を放ち始める。
「な、なんだこれ……」
「東雲!陣から離れ…………!」
いつになく本気で焦ったような一誠の叫び声を最後に聞いて、そのまま冬夜は意識を失った。
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