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第13話
「アシュレイ…!」
「まさか、こんなところで、また会えるなんて…」
コツコツと優雅な足取りでやってきたアシュレイは、自然な動作で冬夜の恐怖で青褪める頬に触れた。すると、肩に乗っていた蝙蝠のヒューズが驚いたように飛び上がり、そして蝙蝠の姿のまま恭しく頭を下げ始めた。
「アッアシュレイ様!何故境界に!」
声には動揺が滲み出ていた。冬夜は真っ直ぐアシュレイの顔を見つめる。相変わらず、いや、初めて会った時よりもさらに美しく見えて、声を失っていた。
チラリとアシュレイが視線をヒューズの方へ移したことで、冬夜もようやくそちらを見た。
すると、声を荒げた様子のヒューズが冬夜を睨みつける。
「おい小姓!アシュレイ様に唾つける気か!」
「ヒューズ。お前は人間界に捕らえられた所為で、主人と他の大公爵の匂いも判別できなくなったようだな」
「えっ…」
ヒューズがアシュレイの言葉に素っ頓狂な声を上げると、やがて彼の言った意味に思い当たったのか覚束ない飛行となり、震えた声を出した。
「ああああ、あの証はアシュレイ様のものっだったのですね…!そ、それは、アシュレイ様、そして彼に失礼なことを…!」
「いい。それほど弱っているということだろう。屋敷に戻って、療養しろ」
「は、はいいい!」
ぴゅーん、という擬音が割り当てられそうな速度で、ヒューズは冬夜とアシュレイの間から離れ墓石の方へと飛んでいく。すると、突然一つの墓跡がヒューズの動きに合わせて扉が開くように地面を移動し、下に現れた真っ黒な入り口へと迷いなく入り込んだ。
ヒューズが真っ黒な穴に入り込むと、墓跡はまた元の位置に戻る。
冬夜はその光景に目を見開いていた。
「配下が、失礼なことをしたな」
「えっ…いや、気にしていない。というか、配下?」
「ヒューズは俺に使える従僕なんだが、最近まで行方知れずになっていてな。境界で消息を絶ったと聞いていたから、人間界に迷い込んでしまったのだろうと思っていたが…」
アシュレイが再び冬夜に顔を向ける。それだけで、冬夜はどきりとした。
「冬夜、君が連れてきてくれたんだな」
(……甘崎に捕獲されてたって、言わない方がいいよな…)
アシュレイの笑顔に冬夜が苦笑を返している後ろで、狼男ヴォルフは所在なさげに佇んでいた。
「俺、さっきから空気なんだが…」
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