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第14話 東雲冬夜は愛している

 冬夜は混乱する思考をどうにか落ち着かせる。  冬夜は、ハロウィンの夜に一夜限りの愛を交わしたアシュレイの顔をじっと見つめながら問いかけた。 「話を…整理させて貰ってもいいか?」 「ああ」  冬夜の言葉に、アシュレイは穏やかに微笑みながらうなずく。 「ここは、俺がいた人間界とは違う世界、魔界。そしてアシュレイは、魔界の…大公爵」 「一応、ヴァンパイア族が住まう国の領主をしている。この魔界の代表者である、大公爵の一人だ」 「……人間じゃ、ない」 「…………」  冬夜が控えめにそう言うと、赤い瞳が切なげに揺れた。あの夜、何度も冬夜を見つめてくれた綺麗な瞳。そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに、思いが溢れて止まらなくなりそうだった。  ただのイケメン外国人だと思っていた。思い出作りで一夜を過ごし、ろくな別れも告げられぬまま離れ離れになった、冬夜の……恋する人。会えなくても、この世界にいる限り、もしかしたら会える日がくるかもしれないと考えれば、忘れられなくて悶々とする夜も、その空想で己を慰めることができた。  でも、違う。まるで夢の中の住人に恋をしたかのような、圧倒的な住む世界の隔絶っぷりに、冬夜はどうこの事実を受け止めればいいのか分からなかった。  しかし、アシュレイは冬夜の悲痛そうな沈黙を別の意味で受け取ったらしかった。 「化物と交わったことを、後悔しているのか?」  その言葉に、冬夜は一瞬で頭に血が上ったような気がした。顔をあげると、辛そうに顔を歪めたアシュレイが目に映る。  冬夜は様々な葛藤も、悩みも、遠慮も、全てその時は投げ捨てて叫んだ。 「化物なんて、思うはずないだろ!」 「……!」 「俺は、あれからずっと、アシュレイに囚われ続けてる!ずっと、あの時握った手の暖かさや、抱きしめられた時の心地よさを忘れられずにいる……俺、すっかりお前のこと、好きで好きで、仕方なくなってたんだよ!」  本当は、別れの言葉をきちんと言えていなかったから、あんなにも切ない心地なのかと思った。だが、アシュレイに再会して、溢れてきたのは恋しくて、恋しくて堪らない気持ちだった。  東雲冬夜は、アシュレイを愛していた。  一生懸命に、そう伝えると、アシュレイは真っ白な顔を薄く朱色に染めて冬夜を見つめていた。そして、ぎゅっと冬夜の体をその腕の中に閉じ込めると、耳元に息を吹きかけるように呟いた。 「すまない……」  どうして謝るのか、意味が分からない。  そう冬夜が言う前に、アシュレイに唇を奪われて、ハロウィンの夜以来の心地よさに、疑問は覆い隠されてしまった。

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