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第21話 もう一人の大公爵②

「ふう、夢中で読んでたら随分と外が暗くなってしまったね。栄養補給を行いたいのだけど」 「………………お前、まだ正気だったのか?」  狼男ヴォルフがひょんなことから連れ帰って保護することになった青年、甘崎一誠を城の書庫へ突っ込んでから数時間が経過した。人間にとって魔界の情報は魂への毒となる。本の一冊、その数ページを流し読みしただけでも発狂する代物に囲まれて、てっきりもうすでに廃人になっているかと思われた。  しかし、一誠は片手に書庫から持ち出したと思われる本を抱き、書庫に突っ込む前となんら変わらない様子でヴォルフのいる部屋に入ってきた。 「人間の世界で、魔界において魂を侵食されない願掛け、というものが伝わっていてね。ここに来た時からそのおまじないを自分にかけていたのだけど、どうやら効果が実証されたみたいだ」  ヴォルフは顔を引きつらせながら自身の座るテーブルの向かいの椅子に腰掛ける一誠を呆然と見つめた。そして、ニコニコと美しい笑みを浮かべながらヴォルフを見つめる一誠に、恐怖かそれとも美しい物を前にした動揺からか、ドキドキしながら尋ねた。 「お前…やっぱり魔術師なのか」 「サイエンティストでオカルティストだ」  ヴォルフは召使いに目配せすると、食べ物を持って来させた。  ベリーソースのかかったウサギのステーキが、少しして一誠の前に持って来られた。ウサギはヴォルフの好物だ。時には自ら森に狩りに出て取ってくることもある。  予想外に、一誠はそれを見惚れるような所作で口に運んでいた。  ヴォルフは、一誠の横に置かれた本に目を向ける。  それは、魔界における種族の百科事典だった。魔界で暮らすありとあらゆる種族、ヴァンパイア、ウェアウルフ、アンデッド、ドラゴニュート…大公爵の存在しない小さな種族まで網羅している、らしい。ヴォルフは1ページよんだだけで放り投げてしまった。  それを半分まで読み進めている。それも人間が、魂を侵されずに。やはり、魔術師としか言いようがない。 「ごちそうさま。魔界の食事というからにはそれなりの覚悟はしていたのだけど、美味しいね」 「そりゃあどうも。飯食ったなら、さっさと書庫に戻れ」 「いや、もう頭を休める時間にするよ。今日の好奇心はひとまず満たされた」 「好奇心ってそんな食欲みたいな感じなのかよ」  ヴォルフは不本意ながら、一誠とかいう危険な男と一緒の部屋で過ごすこととなった。  

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