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第26話 屈辱③ ※

 太腿にはナイフが刺さったまま、痛みと不快感悶え苦しむ中、微かな快感が無意識にヴォルフの拠り所となっていった。  気持ち良くなりたくないのに、気持ち良さだけが身体に渦巻く苦痛をマシにさせる。  心の安寧はどちらにせよ脆く崩れた。 「あっあっああ!や、やめろ、中、かき混ぜるな!」 「だって、キツイからね。身体の力は抜けているはずなのにこんなに狭いなんて、もしかしてこっちの経験なかったのかい?」  当たり前だろう。ヴォルフはウェアウルフの大公爵。数多の群れを征服し、頂点に君臨する魔界最強の人狼だ。  契約はいつも結ばせる側として行ってきたし、いまヴォルフがいるベッドは、契約の更新の為に何人もの僕と儀式を行ってきた場所だった。  そこで、ヴォルフが初めて従わされる側として儀式が行われようとしていた。  こんな状況ではプライドも何もない。  ヴォルフはもう何回目になるか分からない懇願の言葉をもらした。 「お、お願い、します……!許して、ください、やめてください……!やめて、くれたら、無事に人間界に、返しますっひんっ!あ、あの友人も一緒にィ!だから、いれ、入れないで……!」 「今の君の言葉は心からそう思った言葉だね。私も信じるよ。だけどね、心は不変ではない。常に環境に応じて変化し続ける。今私が行為をやめたとて、君の誓いが間違いなく遂行される保証はない。心は自分でさえも制御できないものだ」  冷徹に紡がれる言葉に、ヴォルフの願いは切り捨てられる。こんなにも精神が揺らがない存在をヴォルフは知らなかった。 「……君はとっても美しい。他人の身体を見ただけで、こんなに興奮できるなんて、生まれて初めてだよ」  一誠のその言葉に、ヴォルフは涙でぼやける視界の中、いつの間にか衣服を見出してた一誠の姿を見て青ざめる。  長大な勃起した性器が、股座に押し当てられていた。 「あっ……!」  何かを言う間もなく、性器は濡れそぼった狭い入り口を割って挿入っていく。 「あああああっ!!」  散々いじられて、気持ち良くなれるところを探り当てられてしまっていたヴォルフは、あっけなく身体を快楽に支配された。  肉と肉が合わさる気持ちよさだけではない、征服契約の儀式により、挿入の瞬間、ヴォルフの身体は一誠の物へと強引に作り替えられてしまった。  きゅううん、と心はまだ拒否しているのに身体が強烈に一誠の侵略を悦んでいた。 (……屈服、させられた……こんな、人間なんかに……!!)  苦痛や嫌悪感が全て消え失せ、身体中を快感が巡っていった。 「契約、完了したみたいだね……」  一誠の目には、挿入の瞬間ヴォルフの腹の上に浮かび上がった、女性の子宮を象徴化したような文様を見て、ヴォルフの支配が完了したことを悟った。  しかし、だからといって一誠はここで儀式を終了するつもりはなかった。  何故なら、一誠はここにきて生まれて初めてとも言っていいくらい、セックスにまともな快感を感じていたからだ。 「触らないで勃起できたのもすごいけど、ああ、君の中、とても気持ち良くて勝手に腰が動いてしまう……ッこれが、数多の人が身を持ち崩してきたセックスというものなのかな」 「あ、ひゃあん!!」  ぱちゅん、と大きな水音を立てながら、一誠はヴォルフに腰を押し付ける。  腹の奥をグリグリと抉られる感覚に、ヴォルフは苦しいながらもどうしようもなく切ない心地になってしまう。 (くそっくそぉ……!奥、責められるの……気持ちいい……!)  腸内が疼いて、吸い付くように蠢くヴォルフの体内に気付いた一誠は、意地悪そうに微笑みながら望み通りの刺激を与えてやった。  ひたすらに腰を押し付けて、グラインドするとヴォルフの口からは素直な悲鳴が上がった。 「はぁぁ、あっあんっ!す、すごいい!奥、気持ちっ!」  気持ち良さに身体がのけぞった拍子に、一誠の視界に固く勃起した乳首が映り込んだ。そして不思議と、口にふくみたいという気持ちがわき起こり、一誠は身体を倒すと、意外と薄い色をした突起に吸い付いた。 「あっ!あっあっ!!」  鍛え上げられた胸筋を揉みしだくように掴みながら、先端を舐め、甘噛みし、吸う。意外にもその筋肉は柔らかく、思わずクセになるような手触りについ夢中になって揉んだ。 「ふふ、なんだか母乳を吸う赤ん坊になったみたいだ」  一誠が思わずそんな自分の現状を自嘲すると、信じられない現象が起こった。 「あっ!あっ!胸から、変なのが……!?」  本来は機能を果たさないはずの男の乳首。その先から、確かに白みがかった液体が吹き出してきたのだ。 「あ、私が母乳とか言ったから……主人の命令を絶対に遂行させる征服契約……まさかこんな効果まであるとは」 「く、くそっ!くそぉ!!最悪だ!本当に作り替えられちまったんだ!俺の、身体……」  自らの胸から乳が吹き出すと言う衝撃的な体験を目の当たりにしたヴォルフは、一瞬だけ正気を取り戻し、心の底から嘆いたのだった。

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