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第28話 夜明けの魔界

 全身を心地よい暖かさが包む中、冬夜はゆっくりと目を覚ました。  目が覚めて最初に飛び込んできたのは、この世のものは思えないほどの美しい光景だった。 「アシュレイ……」  なりゆきで初めて一夜を共にした日から、ずっと忘れず思い続けてきた人。それが実は魔界の吸血鬼で、という衝撃的な事実がつい先日判明したものの、それで冬夜の中の思いが揺らぐことはなく、今も、目の前であどけない寝顔を晒す彼に言いようのない愛しさを感じていた。  触れたい、と冬夜は思った。すでに相手の体温が分かるくらいくっついているのに、手を伸ばしたくてたまらない。  しかし、この美しさが冬夜に気安く手を伸ばすことを躊躇わせる。  本当に、こんなに綺麗な男が、自分を愛してくれたことが未だに信じられない。 「はあ……この顔、いつまでも眺めてられるな……」 「眺めるだけ、なのか」  うっとりと冬夜がアシュレイの寝顔を見つめながらそう呟くと、眠っているような様子のままアシュレイがそうはっきりと喋ったので、驚いてベッドから起き上がった。 「アシュレイ!!起きて……!」 「キスの一つでもしてくれると思ってずっと待っていたのだが」 「んな!」  可愛らしいアシュレイの言葉に、冬夜はもごもごと言葉をまごつかせる。そして内心、惜しいことをしたなと悔しがった。  思い切ってそれこそ「キスの一つくらい」すれば良かったと思った。 「惜しいことした……」 「よし、もう一度寝るから、遠慮なくしていいぞ」 「いや、起きてるだろ絶対!恥ずかしいって!」 「昨日、もっと恥ずかしいことしたのに?」  不敵な笑みを浮かべてアシュレイにそう言われると、冬夜も言葉を失う。しかし、昨日は待ちに待った再会と、告白と、そしてここまでの欲求不満で気分がハイになっていたから冬夜も大胆になれたのであり、平素の彼は存外奥手だった。  流されやすいという側面もあるが。 「……し、してもいいのか」 「ああ」  どうぞ、と言わんばかりに、まるで眠り姫のように美しくベッドに横たわりながら、アシュレイが目をそっとつむる。  冬夜は引き寄せられるようにアシュレイの唇に自分のそれをゆっくりと重ね合わせる。  セックスもした仲なのに、他愛もない触れ合いにどうしようもなくドキドキする。  満たされた心地になりながら唇を離すと、宝石のようなアシュレイの瞳と視線が合わさった。 「目開けてる!!」 「随分と必死そうな顔だったな」 「言うな……いたたまれない」  そう言うと、アシュレイは楽しそうに笑った。

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