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第32話 バン・ルージュ城②

 冬夜は魔界では馴染みのない来た時から着ている私服姿から、この魔界の住人らしい恰好に着替えることとなった。一緒に、アシュレイもラフな普段着から煌びやかな礼装姿になる。  冬夜が与えられたのは、肌触りのいい白いシャツと、光沢のあるスラックス、そしてその上に着る墨色のチュニックだった。腰回りで布が狭まっており、上半身の直線的なシルエットが綺麗に出ている。前から後ろにかけて丈の長さが長くなっており、鏡の前に立つと、星空のようなキラキラとした裏地が見えた。 「うっわ……こんな綺麗な服、初めて着たよ……」 「よく似合っているぞ。冬夜」 「アシュレイは……もう、完全に王様にしか見えない」  王様なのだが、アシュレイの姿を見て冬夜は溜息がちにそう呟くしかなかった。  フィクションの中のヴァンパイアそのものといったような、シルクのジャボの中心には赤い宝石のブローチがつけられ、肩にかけられた長外套は深いワインレッド。裏地にはうっすらと薔薇の刺繍が見える。重厚なブーツの金属光沢は黒く妖しく光っている。武器のように高いヒールが、アシュレイの姿勢をより堂々としたものに見せている。  目線も少し高くなって、男らしさも大幅にアップして冬夜は心臓が高鳴るのを止められない。  頭にはダークシルバーの繊細な意匠のティアラが載せられており、高貴なるその姿はまさしく王だった。 (改めて……俺、本当にとんでもない奴を好きになっちまったな……)  冬夜と並ぶと、とても対等な恋人同士のようには見えない。はたから見れば、完全に王様と召使だ。  冬夜はなんとなく鏡の前から逃れるように移動すると、アシュレイが近づく。 「何……これは」  冬夜の胸元におもむろに添えられたのは、なんとも不思議なピンクゴールドの薔薇だった。作り物かと思ったが、少し触ってみると植物特有の瑞々しい感触があった。それは信じられないことに生花だった。 「お守りだ。魔界で余計なトラブルに合わないように」 「綺麗だ……ありがとうアシュレイ」

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