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第34話 銀の薔薇園にて
胸に添えられた金色の薔薇に、今度は銀の薔薇の咲き誇る花園と来た。
魔界の植物というのは、冬夜の認識を遥かに超えるものだらけのようだ。
柔らかい光が降り注ぐ屋外にて、アシュレイと肩を並べて歩きながらその薔薇園の見事な光景に見とれた。
「すごい……花がどれも銀色……それなのに、人工物っぽさはない。不思議だなあ」
「ヴァンパイア族は薔薇を特に好んでいてな。色んな品種が数多く生み出されているんだ。銀の薔薇は、実は俺が開発したんだ」
「アシュレイが!?品種開発なんて、研究者みたいなことをするんだなあ」
「ああ、プラチナで作った薔薇の宝飾品を見かけて、これが中庭に咲いていたらいいのにと思ったら、夢中になって研究したのを覚えている」
冬夜はアシュレイの努力の結晶である花に顔を寄せて、その香りを吸い込んだ。普通の薔薇とは違う、すうっと爽やかな香りがした。
心の中で一誠が見たら興奮するだろうな、と考える。思わず可笑しそうに湧き出てきた笑いをこらえると、ムッとした表情のアシュレイが冬夜をのぞき込んでいた。
「うわ!」
「冬夜。あの男のことを考えているだろう……俺といるのに」
「な、なんで分かったんだ」
「俺といるときに浮かべる顔と、あの男といるときに浮かべる顔は違うんだ。冬夜は気づかないだろうが」
それは違うだろう、冬夜は思う。一誠は変わった親友で、アシュレイは……何より素敵な愛する男なのだから。
言わば、一誠に向ける顔が冬夜の通常時で、アシュレイは特別だ。
しかし、アシュレイにとっては、未だよく知らない冬夜の通常の顔の方が特別なように思えた。
アシュレイは冬夜の意識をこちらに向けさせるように、強引にキスをする。
「あ、こ、こら!外なのに」
屋外での突然のキスに、冬夜は辺りを見回して焦ったように言う。しかし、その顔はすでに朱色に色づいており、迷惑に思っていないのが明らかだ。
「こんな早い時間に中庭に来る者もいない。ジュリオは東屋だし……それに、昨日は受け入れてくれたじゃないか」
「あ、あれは……!なんというか、気持ちが盛り上がってつい、大胆になっちゃったというか……ううっ、よく考えてみると一誠やアシュレイの友達の前で俺なんてことを……!」
時間差で恥ずかしさが襲い来る冬夜を、あふれ出る愛しさと欲望を隠そうともしないアシュレイが見つめる。
「二十年間の空白を、昨晩だけで埋められるわけがない。冬夜……」
「あっ」
アシュレイの顔が、冬夜の首筋に寄せられる。息がかかるだけなのに、ゾクゾクとした感覚が全身をおののかせる。
銀の薔薇の爽やかな香りが、突如噎せ返るような甘い香りに変化する。
ふと、見ると銀色の薔薇が徐々にピンクゴールドに色づいていくのが見えた。
それを見て冬夜はなぜか、ああ、逃げられないなと直感的に悟るのだった。
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