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第37話 混乱のルプス・レクス城①

 冬夜とアシュレイの過ごした午前中のひと時は非常に穏やかだった。しかし、正午になった頃、カラスと蝙蝠とイノシシを掛け合わせたような、飛行する怪物がバン・ルージュ城の外で暴れるように飛び回りながら何事かを叫んでいた。 【号外ーー!!号外ーーー!!】 「な、なんだあれっ!?」  冬夜がその奇怪な光景に目を丸くしていると、アシュレイがその怪物たちが飛ぶ空の方へと飛翔し、五月蠅く騒いでいる一匹を捕まえて降りてくる。 「重要な知らせをもたらす魔界の生き物だ。何処かで何か重大なことが起きたのだろう」 【ギャッギャッ!!】  冬夜はその怪物の恐ろしさに若干距離を置きながら、アシュレイが優しい仕草でその怪物のいう事に耳を傾けるのを見た。冬夜には怪物がギャーギャーと呻き声を上げているようにしか聞こえなかったが、アシュレイは怪物の声を聞いていくうちに、信じられないことが起きた、とばかりに顔を徐々に強張らせていった。 「な、なんていうことだ……!」 「アシュレイ、一体何と言ってるんだ?そいつは」 「か、甘崎、一誠が……」 「一誠?一誠に何かあったのか!?」  アシュレイの口から出てきた親友の名前に、冬夜は、悪い予想が頭を過り、顔を蒼白とさせる。しかし、それ以上に青白いアシュレイの口から震えるように出てきた言葉は、予想の斜めを行くものだった。 「甘崎一誠が、ウェアウルフ大公爵ヴォルフを屈服させ、主従契約を結ばせたらしい……!」 「く、屈服!?主従契約!?」  一誠あいつ今度は何をやらかした!?  冬夜は一誠の常に予想を超えてくるエクセントリックぶりを思い出し、また何かやったのだと即座に察しをつけた。  しかしアシュレイにとって友人が屈服しただとかの連絡は、まさしく青天の霹靂だった。彼は違う種族の同じ立場として、ヴォルフの実力が如何ほどのモノなのかをよく知っていた。それがポッと出の人間に屈服させられるなど……アシュレイには信じられないことだった。   「すまないが、今すぐ俺とウェアウルフ領土の城……ルプス・レクス城に来て欲しい!」  ここに来た時と同じように、冬夜はアシュレイに抱きかかえられ、超高速で空を滑空しながら一誠が預けられた、ウェアウルフの城、ルプス・レクス城へと向かった。  高速移動に目を回しながらウェアウルフの城の前にアシュレイと共に降り立った。  降りてみて解ったが、地上は何やら犬の遠吠えのような物があちこちから響き渡り、異様な雰囲気をつくりだしている。冬夜はこれがウェアウルフの領土の通常なのかと一瞬思いかけるも、アシュレイの「街が混乱している……」と呟いていたのを見て、『異様』という認識が間違っていなかったと理解する。 「ヴォルフは……」  アシュレイが城の中に立ち入ると、物凄いスピードでこちらを駆けてくる人影がアシュレイの横を走り抜けていった。 「甘崎!?」 「やあ!東雲!昨日ぶりだね!!」  冬夜が後ろの方へと駆け出していった一誠の方を向きながら、驚きの声を上げる。咄嗟に冬夜はずっと後ろの方へと走っていく一誠を追った。 「おい!何必死になって走ってるんだよ!?」 「そりゃあ決まっている!追われているのさ!ヴォルフの部下のウェアウルフ達にね!!リーダー思いないい部下を持ったよ彼は!!」 「お前……!一体何したんだよ!」  冬夜がそう叫ぶように問う。そして、冬夜はここで初めて、一誠が何やら身体の半分くらいの高さは有りそうな杖を握りしめていることに気付いた。 「よい、しょ!!」  すると、一誠は杖を地面の方に倒したかと思うと、杖の上に足を乗せ、まるで波に乗るサーフボーダーのように杖と一緒に空中へと浮き上がった。

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