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第38話 混乱のルプス・レクス城②

「とっ、飛んだ!!?」 「やった!成功だ!この世界ではやはり魔法が当たり前として存在しているんだ!」  空中でバランスを取りながら、杖の上に乗り、まさに魔法使いのようにすいすいと上で旋回しているのを呆然と冬夜は眺めた。  城に入るのは保留して、冬夜の側まで来たアシュレイが空を飛ぶ一誠を見ながら、呆れ果てたような声色で呟いた。 「……実に数百年に一度、ああやって魔界の住人より魔法を使いこなしてしまう、人間の魔術師が生まれる」 「甘崎が魔法を使うなんて……」 「魔力の少ない人間界ではおまじない程度だが、魔力に満ちているこの世界に才能ある人間が来れば、あのように使いこなすことができる。ヴォルフが敗北したというのも嘘ではないのかもしれないな」  アシュレイが何処か諦めたような色を声に含ませながら呟く。冬夜は空高く飛び回る友人の姿に絶句するしかなかった。冬夜でさえアシュレイに抱えられて飛んでも恐怖が勝ると言うのに。  すると後ろから全体的に毛深い容貌の人型の怪物たちが物凄い勢いでやってきて、空飛ぶ一誠に怒声を浴びせかけてきた。 「降りてこい!!魔術師め!!我らが大公爵を手籠めにしたその罪……!命一つでは償い切れないと思え!!」  冬夜は思わず喉を引き攣らせた声を上げながら、情けなくもアシュレイの後ろに隠れる。昨日も見た狼男の集団がそこにいた。しかしその誰もがアシュレイや冬夜には目もくれず、怒りを滲ませた瞳を空の一誠に対して向けている。  しかし当の一誠はというと、ゆらゆらと杖の上に足をかけ空中に浮きながら、辞書のような分厚い本を広げている。あんな状況でマイペースを崩さないのは流石一誠というところだが、友人としては胃が痛い思いしかない。  しかし、やはり友人が怪物のような存在に追い詰められているのは堪える。  冬夜は恐怖心を必死に抑え込むと、彼らをなんとか宥めようと決意し、アシュレイの後ろから前に出てくる。  それを、アシュレイがやや遅れた動きで制する、その前に空中で本に目を向けていた一誠が自分を脅かしつけるウェアウルフの集団に視線を向けると、何事かを呟いた。  すると、一誠の周囲から光り輝く雪のようなものが、ブリザードに巻きこむようにウェアウルフたちに降りかかった。  アシュレイは咄嗟に冬夜に覆いかぶさってその光る雪が当たらないように護る。  ウェアウルフたちは当然悲鳴を上げた。アシュレイによって隠された視界の中、聞こえる声はまさに驚いた犬たちの悲鳴のようだった。しかし、それはすぐにピタリと止むと、同時にアシュレイも何かに気付いたのか冬夜を解放して空を見上げた。  誰もが呆然とする中、空にいる一誠だけが楽しそうな微笑みを浮かべていた。 「驚かせてごめんよ。ハッタリ魔法の試し撃ち、さ」  ウェアウルフたちの怒りは頂点を超えた。怒号を上げて、武器まで持ち出して一誠を打ち倒そうと躍起になる。一誠は肩をすくめると、すいっとさらに天高く舞い上がり、彼らから逃げるように空の何処かへと逃走していった。 「おい!!甘崎!!」  引き留めるように冬夜が名前を呼ぶが、すでに友人の姿は消えた後だった。

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