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第40話 見せつけられる征服①
「征服契約を交わした者同士は互いに現在何処にいるのか把握することが出来る……俺の感覚では、あいつは今こっちにいるはずだ」
そうヴォルフに言われてアシュレイや冬夜と共に訪れたのは、ウェアウルフの領地の外れにある、不毛の岩山がある土地だった。こんな逃げ場のなさそうなところに一誠は逃げ込んだというのか、と冬夜が疑問に思っていると、道の途中で、倒れ込んでいる狼耳の男性を発見した。
「シルヴィア!大丈夫か!」
ヴォルフが名前を呼びながら倒れている狼男を抱き起す。彼は気絶はしておらず、ただ、身体から力が抜けて起き上がれないと言った風だった。
「喋れるか」
「ヴォルフ様……申し訳ございません……あと少しで捕らえられるところだったのですが、麻痺の魔法を繰り出されて……」
「もうそんなに魔法を使いこなしていっているのか」
アシュレイがシルヴィアと呼ばれた男の言葉を聞いて、感心したように呟いた。
「他にも追いかけて行った奴らがいただろ?そいつらは?」
「向こうにある洞窟へ逃げ込んだ人間を追いかけて……多分すでに追い詰められて、奴めきっと無事ではすんでいないはずです」
ヴォルフはその言葉を聞いて一瞬安心したような顔をするも、自分の腹に手を当てて、自分と一誠の契約が今だに続行中であることに気付くと顔を青ざめさせた。
「あいつらが危ない!」
袋小路に追い込んだとシルヴィアは得意げになっていたが、それでも無事であることが感覚で伝わってくると、予想できる状況は反転する。
反撃されて、壊滅的な被害を受けているのはウェアウルフの方である可能性が高かった。
アシュレイと冬夜は倒れたシルヴィアの介抱を任されて、ヴォルフは一人一誠の気配を追いかけて、臣下たちが追い詰めたという洞窟の方へと恐る恐る入る。
そして、そこで見たのは衝撃的な光景だった。
「んっ、はあっあっ……イッセイさまぁもっと……!」
「イッセイさま、次は俺にも口づけを……」
10人ほどのウェアウルフの兵士が倒れ伏す奥で、3人ほどの比較的若い年ごろの臣下たちが、とろんとした女にされたような表情を浮かべて、一誠にキスをねだっている異様な光景だった。
一誠は、一人の美少年の顎を掴むとそのままぐいと引き寄せて深く、濃厚なキスをする。
その様子を見て、何故だか一気に頭に血の昇ったヴォルフは洞窟中に響き渡る怒声を上げた。
「何をやっているんだ貴様はァーー!!」
「おや、ヴォルフ。来たんだ」
なんてことないような表情を浮かべて、腰砕けになった様子のウェアウルフを背に立ち上がり、シルヴィアと同じく麻痺で倒れている兵士たちの間を平然と歩きながらヴォルフのもとへと近付いた。
「何をしていたかって?ちょっとした実験だよ。あの征服契約ってやつは、挿入を伴わない性行為でも成立するのかな、と疑問に思ってね。結構色々試したけど、心はすっかり征服されたようなものだが、契約自体は成立しないみたいだ。君にしたようなことをしない限りね」
つつ、と一誠はヴォルフの胸に指先を当てると、そのまま蛇が這うような動きで征服紋のある腹の辺りまで指先を撫でる。
くすり、と笑った一誠の微笑みに、ずくり、と腹の奥が切なげに疼く。
(くそっ、だ、駄目だ……契約の効果で……!)
胸が締め付けられるような痛み、一誠の表情、一挙手一投足の動き全てが魅惑的に映る。
「あの青年たちに私がしたことを見て、我が僕はどう感じたかな?」
「俺の……大事な臣下に手を出したのが、許せない……」
「違うよ」
ヴォルフは自分が感じた怒りを言葉にしたつもりだったが、それをすぐさま一誠に否定される。ヴォルフは一誠に優しく肩を抱かれ、そのまま大した抵抗もできずに倒れ伏す臣下、一誠に心奪われた臣下の前に連れてこられる。
「このウェアウルフたちをまとめる大公爵ヴォルフ、君に頼みがあるんだ」
「な、なんだ」
「人間界に帰るまでの、私の身の安全を保障して欲しい」
こちらからそれを交渉材料に、一誠の暴挙を止める為にここまでヴォルフはやってきたのだ。不本意ながら、アシュレイにもそれをしっかりと一誠に約束するように説得された。
「お前に言われるまでもなく、そういうために俺はここにきたんだ。約束するから、なあ、こいつらにかけた魔法を解いてくれよ」
「解くよ。彼らによく私の立ち位置を理解させてからになるけど」
「何……?」
ヴォルフが一誠の言った言葉の意味をとらえきれず、首を傾げていると、一誠は突如、ヴォルフの着ていた衣服の襟をつかみ、それを力いっぱい左右に引き裂いた。
混乱と、一誠との契約の拘束力で動けなくなっているヴォルフを、麻痺で倒れながらも、意識ははっきりとしている彼の臣下は驚きの眼差しで見つめた。
「な……!」
「さあ、ウェアウルフの皆、よく見てくれよ。君たちの王が、私に『征服』されるところをね」
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