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第41話 見せつけられる征服②
「ヴォルフ、四つん這い」
名前と姿勢を言われただけなのに、ヴォルフは言われるがまま、臣下たちも見ている中で一誠の前に跪き、そのまま四つん這いの姿勢になった。
露わになった征服紋が怪しく紫色に輝く。
ドキドキと心臓が早鐘を打ち始める。
こんなふうに黙って言うことを聞かせられるのも、臣下たちが見ている前でこんな体勢にさせられるのも何もかも死にたくなるほど屈辱的なのに、ご主人様に命令されたという高揚感で全身が甘く痺れる。
「いい子だねヴォルフ」
そう声をかけられると、契約に全身を支配されたヴォルフは、うっとりとした顔を一誠に向けてしまう。
褒められた、嬉しい、もっと喜んで欲しい。そう思う心とは別の場所で、違う、何をする気だやめろ!臣下たちの前で屈辱的だ、許せない!と怒り狂う心も確かに存在する。しかし、そんなヴォルフの理性と呼ぶべき心の部分は、透明な籠に押し込められたかのように心の奥にしまい込まれ、表には出てくることがなかった。
顎を掴まれ、四つん這いの姿勢のまま顔だけ上に引っ張られ、他の臣下たちにやったみたいなキスをされる。
首がひっぱられて、呼吸が上手くできなくて苦しい。
「うむっ、うう~~~!んんっ!!?」
ガリ、と舌先に鋭い痛みが走り、口を放されると同時にヴォルフは自分の舌先から血が滲み出てくるのを感じた。
文句の一つだって叫びたいのに、喉元の方まで出かかった言葉が、何かに押さえつけられたかのようになって、黙りこくってしまう。
契約の強制力によって、黙らされているのだ。
「さっきはすまなかったねヴォルフ。私は君の主人なのに、他の獣と口づけなんてして。さっきあれほど激怒したのは、悋気を覚えてしまったからだろう?」
そんなわけない!と全力で否定する心と、控えめながらに肯定する心が隣り合う。勿論後者は契約によって無理矢理抱かされてる心だ。なのにヴォルフは、本当に否定する心こそが本物の自分の心なのか分からなくなる。
「主人の命令だ。本音で答えてくれ。君は他の獣にキスする私の姿を見て、私の僕として嫉妬した?民を想う王として怒りを覚えた?」
言葉の拘束が一時的に解かれるのを感じ取った。
ヴォルフはずっと押さえつけられていた言葉をやっと一誠にぶつける。
「そうだよ!嫌だった!お前は俺のご主人様だから、他の奴にキスなんてするなよ!」
__俺は何を言っているんだ!?違う!どうして!?俺の本心じゃない言葉が口から出てくるんだ!
矛盾に心が荒れ狂うヴォルフを、臣下たちが信じられないような目で見る。
本当に我が大公爵は、あの人間の魔術師に身も心も落とされてしまったのかと……。
一誠の目に順調に進む実験を見守るかのような静けさが宿っているのに、ヴォルフは気付く。
本音で答えろなんて嘘だったのだ。
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