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不屈のラブファイター 3
数分後。
「へぇえ、こんな部屋に住んでるんだぁ」
きょろきょろとあたりを眺め回す暁。高杉はと言うと、暁の存在をまるで無視して冷蔵庫をあさる。
「あ、メシですか?俺もちょーどハラ減ってんですよー」
勝手にソファに腰掛け、上機嫌で声をかける暁。だがしかし—―
高杉は手早く一人前の食事を調理し、暁の向かいに陣取って黙々と食べ始めた。
「高杉さん、ハラ減った!」
あーん、と口をあけて見せる。高杉はニヤッと笑って
「欲しかったのか?」
と小首を傾げ、右手に持っているパスタの絡みついたフォークを掲げる。
「そんなこと早く言えばいいのに」
にっこり笑いながらフォークを暁の口に運ぶ。嬉しさで信じられない暁……
「いっ—―」
口の中のフォークを思いきり横へスライドさせた。
口の中が切れ、咥内に鉄臭さが広がる。
「なんで勝手に上がりこんできたあなたに食事まで出さなきゃいけないんですか」
冷静に言い放つ高杉の頬を、血のついた両手で優しく挟む。
「それでも好きですよ」
「俺は嫌いだよ」
間髪入れずに返ってくる無情な返事などお構いなしに、暁は次の瞬間高杉の唇を奪うと言う暴挙に出た。
うっとりと目を閉じていた暁の顔が、徐々に歪んでくる。高杉は一点を見つめたまま。
ついに暁が唇を離した。さっきよりも大量の血が、紅い糸となって二人の唇をまだ繋いでいた。
「何かされるとは思ったけどさーっ、せめて唇にしてくださいよっ!!」
暁が図に乗って舌を高杉の口内に差し入れたのが運のつき。ガリッという音を伴って暁の舌は噛まれたのだった。
忌々しげに口内の血を吐き捨て、高杉はまじまじと暁を見つめた。
「お前…イカれてるんじゃない?」
当の暁はふ、と鼻で笑って返した。
「それを言うならお互い様でしょ。あなたは俺を傷つけて楽しんでる」
ふうと呆れる高杉。
「楽しんでる?馬鹿馬鹿しい。単なる迷惑に過ぎない。だいたいみっともな いと思わないのか?自分よりも年下の奴にボロ雑巾並みに扱われて…」
年下という事実を知らなかった暁は内心少しショックだったが、めげずに反論した。
「年上とか年下とか関係ないです!…そうしてそこまで俺のこと忌み嫌うんですか?」
いつのまにやら食事を終えた高杉が食器を持って席を立った。
「どうしてとかそういう次元の問題じゃないね。人の言いなりになって媚び諂うサマはブザマとしか言い様がない」
そこまで聞くと、暁は高杉の腕を強引に引いた。油断していたため高杉の身体はゆらりとバランスを崩し、暁めがけて倒れ込んだ。
「それって…強引になれってこと?」
「笑わせ、んっ…」
懲りずに2度目のキス。
そしてその直後には暁の手の甲にしっかりとフォークが刺さっていた。
またも手から血を流しながら、まるで気づいていないかのようにくちづけを楽しむ暁。
「いいよ、もっと酷いことしても。俺あなたになら何されても—―愛してるから、伊織さんのこと」
そこまで言った途端、暁は宙を舞い、壁に打ちつけられた。
「帰れ!」
「い、いお…」
「気安く名前で呼ぶな!帰れ!!」
暴挙の限りを尽くしたチャレンジャーは、ついに部屋から追い出された
あんなに怒ったのは初めてだ、暁は漠然と考えた。名前で呼んだことに対して、なのか—―?
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