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不屈のラブファイター 4

 暁は高杉の、とびきり爽やかな笑顔を想像してみた。 それは本当に想像の中でしかありえないような、清々しい極上の笑顔だった。 そしてその笑顔を、いつか自分に向けてくれる日が来るのだろうか…などと考えてみたりしながら家路をたどった。  結局そんなことがあったせいで高杉の仕事は一向に進まず、持ち帰った仕事をそのまままた会社へ持っていく羽目になる。  当然翌朝もいつものように暁がお出迎え。 めげずに元気良く挨拶するが、当然のことながら無視。 しかしいつもと様子が違う…? 暁はそんな気がした。 「どうしたんです、具合悪いんですか、伊織さ」 「名前で呼ぶなって言ってるでしょう。それと—―疲れてるんですよ、あなたのせいで」  いつもの皮肉なのだが、今日は何処となく弱々しく、覇気がない。 消え入りそうに儚げな高杉に、暁は生唾を飲んだ。 指を咥えて見送った少し後、店員らが声を上げた。 「きゃあ、店長?!」  高杉が倒れた。 「伊織だってー、ヘンな名前」 「女みてーな名前だな」 「顔だって女みたいだ」 「本当は女じゃないの?伊織ちゃ~ん」 「守ってあげるよ。僕は好きだよ、伊織って名前も…君のことも」 「伊織は何も悪くないんだよ」  本当に?僕は悪くない? ホントウニ――― 「大丈夫ですか?」  自分が汗びっしょりであることに気づく。 「すっげーうなされてましたけど…」  傍らの暁に言われて、よくよく今の状況を考えてみる。 「なんで二人とも裸なんだ?!」  言うが早いか、暁をベッドから突き落とした。 「何もしてませんよ。あっためてただけですから」  しぶしぶ服を着ながら暁が言う。何かされてたまるか、と顔を背けたとき、 「伊織さん」 「お前しつこ…」 「分かってます、分かってますって!そんなに言うなら聞かせてくださいよ。名前で呼ばせない訳を―――」  高杉は一瞬眉を動かしたが、すぐにまたもとの表情に戻った。 「お前には呼ばれたくないだけだ」 「ウソです!取り乱し方が普通じゃなかった!」 「わかったようなこと言うんじゃない」 「教えてくれないならずっと伊織さんて呼ぶっ!!」  それまでポーカーフェイスを気取っていた高杉も、さすがに頭に来た。 「うるさい!疲れてるんだからもう帰れ!」 「イヤです!看病するんだから」 「いいかげんに…」  そこまで言い合いが続いて、暁は高杉を抱きしめた。 「こんな状態の伊織さん、ほっとけません」  高杉は暁に抱きすくめられたまま、歯痒そうに言った。 「なんで…?どうしてお前はヒトが必死で築いた壁を勝手に蹴破って、心の中に土足で…」 「…すみません。好きだからしょうがないです。俺伊織さんのためならなんでもしますから、一つだけ頼み聞いて…俺のものに、ぐふっ」 「な・ら・な・い!」  それまでおとなしく抱かれていた伊織が突然暁の首を締めた。 「相手が病人だからって調子に乗るなよ…」  暁を引き離し、まだ冴えない顔色のまま肩で息をする高杉。 「今日は帰ります。病状悪化しそうだし。体調悪い時に無理やりゲットしてもフェアじゃないですからね」  しれっと言い放ち、暁は帰っていった。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」  ムカつくムカつくムカつく!! 何なんだあの余裕の笑みは! だいたいゲットって何だ! 俺は誰にもゲットなんかされない!

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