5 / 38
不屈のラブファイター 4
暁は高杉の、とびきり爽やかな笑顔を想像してみた。
それは本当に想像の中でしかありえないような、清々しい極上の笑顔だった。
そしてその笑顔を、いつか自分に向けてくれる日が来るのだろうか…などと考えてみたりしながら家路をたどった。
結局そんなことがあったせいで高杉の仕事は一向に進まず、持ち帰った仕事をそのまままた会社へ持っていく羽目になる。
当然翌朝もいつものように暁がお出迎え。
めげずに元気良く挨拶するが、当然のことながら無視。
しかしいつもと様子が違う…?
暁はそんな気がした。
「どうしたんです、具合悪いんですか、伊織さ」
「名前で呼ぶなって言ってるでしょう。それと—―疲れてるんですよ、あなたのせいで」
いつもの皮肉なのだが、今日は何処となく弱々しく、覇気がない。
消え入りそうに儚げな高杉に、暁は生唾を飲んだ。
指を咥えて見送った少し後、店員らが声を上げた。
「きゃあ、店長?!」
高杉が倒れた。
「伊織だってー、ヘンな名前」
「女みてーな名前だな」
「顔だって女みたいだ」
「本当は女じゃないの?伊織ちゃ~ん」
「守ってあげるよ。僕は好きだよ、伊織って名前も…君のことも」
「伊織は何も悪くないんだよ」
本当に?僕は悪くない?
ホントウニ―――
「大丈夫ですか?」
自分が汗びっしょりであることに気づく。
「すっげーうなされてましたけど…」
傍らの暁に言われて、よくよく今の状況を考えてみる。
「なんで二人とも裸なんだ?!」
言うが早いか、暁をベッドから突き落とした。
「何もしてませんよ。あっためてただけですから」
しぶしぶ服を着ながら暁が言う。何かされてたまるか、と顔を背けたとき、
「伊織さん」
「お前しつこ…」
「分かってます、分かってますって!そんなに言うなら聞かせてくださいよ。名前で呼ばせない訳を―――」
高杉は一瞬眉を動かしたが、すぐにまたもとの表情に戻った。
「お前には呼ばれたくないだけだ」
「ウソです!取り乱し方が普通じゃなかった!」
「わかったようなこと言うんじゃない」
「教えてくれないならずっと伊織さんて呼ぶっ!!」
それまでポーカーフェイスを気取っていた高杉も、さすがに頭に来た。
「うるさい!疲れてるんだからもう帰れ!」
「イヤです!看病するんだから」
「いいかげんに…」
そこまで言い合いが続いて、暁は高杉を抱きしめた。
「こんな状態の伊織さん、ほっとけません」
高杉は暁に抱きすくめられたまま、歯痒そうに言った。
「なんで…?どうしてお前はヒトが必死で築いた壁を勝手に蹴破って、心の中に土足で…」
「…すみません。好きだからしょうがないです。俺伊織さんのためならなんでもしますから、一つだけ頼み聞いて…俺のものに、ぐふっ」
「な・ら・な・い!」
それまでおとなしく抱かれていた伊織が突然暁の首を締めた。
「相手が病人だからって調子に乗るなよ…」
暁を引き離し、まだ冴えない顔色のまま肩で息をする高杉。
「今日は帰ります。病状悪化しそうだし。体調悪い時に無理やりゲットしてもフェアじゃないですからね」
しれっと言い放ち、暁は帰っていった。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
ムカつくムカつくムカつく!!
何なんだあの余裕の笑みは!
だいたいゲットって何だ!
俺は誰にもゲットなんかされない!
ともだちにシェアしよう!