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不屈のラブファイター 7
数日後。今日は静流が言っていた紫苑ショーの日。
「伊織さん、おはようございます。お迎えに上がりました」
朝も早よから暁がちょっとおめかしして登場。
一方高杉は、暁の訪問で目が覚めたと言った様子。頭の上にはクエスチョンマーク。
「今日は紫苑のショー…」
にこにこと言いかけた暁の顔面を枕が直撃する。
「ショーは夜からだ!!しかも誘われたのは俺一人だぞ」
不機嫌極まりない表情ながらも寝乱れた浴衣姿で起き出してきた高杉に、暁は走り寄った。
「ちゃあんとチケット2枚くれてたじゃないですかぁ」
ああ、とテーブルに目をやり、高杉は置いてあった紙切れを真っ二つに破った。
「出かける仕度するから表出てろ」
何事も無かったように暁を追い出しに掛かる高杉。
「ひどい…」
なにも破らなくたって、と恨みがましく高杉を見つめ、なかなか出て行こうとしない暁に
「これやるから」
と紙切れを渡すなり部屋のドアを閉めた。
その紙切れは他でもない、今夜のショーのチケットだった。
「高杉さんとこの若旦那さんだ」
「相変わらず品があるわねぇ」
「あ、あの人『高杉』の…」
「洋服姿も素敵ね」
そんな声が四方から耳に入ってくる。
高杉はあちこちの紳士淑女とにこやかに挨拶を交わしている。
暁はこの時初めて、横にいる人物の凄さを知った。
(なんか…えれー有名人なんだな、伊織さんて。もしかして俺ってすげー人の…)
『すげー人の』何かは知らないが、とにかく暁は一人取り残されている間、そんなことを考えていた。
そんな時、
「ったくいいご身分だぜ」
先ほどの声の数々とはまるきり別の種類とわかる、低くて批判的な声が近くから聞こえた。
「跡取りって言ったって、あいつ妾の子らしいじゃん」
「それにあんな事件起こしといてよくこんなとこ顔出せるよな」
嫉妬と蔑みの入り混じった顔で、二人の男が明らかに高杉を目で追いながら話していた。
どう考えても、事情がまったく飲み込めないにせよ、高杉が悪く言われている、ということだけはさすがの暁にも理解できた。理解できるやいなやその二人に突っ込もうとする暁の方を何者かがつかんだ。
「何するつもりだ」
お前のすることなんかお見通しだ、といわんばかりに呆れ顔の高杉がいた。
「決まってるじゃないッスか、あいつら伊織さんのことあんな…」
「言わせておけばいい。あいつらの言ってることは事実だ」
事実なのか、と一瞬思ったが、今はそんなことどうだっていい。
「そんな…でも事実だからって」
「もういいんだ!—―こういうのにはもう慣れてるから」
ふいと顔をそむける高杉に尚も詰め寄ろうとした時、
「あっきー!!来てくれたんだぁ、嬉しーぜ!」
上機嫌の紫苑と静流が現れた。
「高杉さん、ありがとうございます、無理言ってすみません」
4人でしばらく雑談が続いたのだが、暁は見るに不憫になってきた。
紫苑と静流のあまりのラブラブ加減を、高杉はどんな気持で見ているのだろう。
仮にも静流に思いを寄せているのであれば、少なからず複雑な思いのはずだ。
—―本当にこんなので平気なのか?
「そろそろ席に着きましょ!」
暁は嫌がる高杉を無理やり席に連れていった。
「何するんだ」
連れて行かれながらも怒る高杉に、暁は遂に口を開いた。
「見てらんないです!」
「じゃあ見るな!」
暁が言い終わるか終わらないかのうちに即反撃され、またも惨敗してしまう暁だった。
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