10 / 38

不屈のラブファイター 9

「暁?!ちょっと1ヶ月近くもどこ行ってたの?!」  母一人子一人で暮らしてきた実家に久々に戻る。 母はカンカンだったがそんな罵声も耳には入ってこない。 とっとと自室にこもり、ベッドに寝転がった。  最初から結果は見えていた。 初めて会ったのがあれだし、最初からずっと嫌われっぱなしだった。 静流とはまったく正反対だし…。 「あーあ!フラレちゃった~~~~っ」  一人大声で叫びながら寝返りを打った。 「…あ?」  いつものように本屋のレジで居眠りの紫苑の前に、暁が立っていた。 「あっきー店来んの久しぶりだなあ!全然来ねーから高杉とよろしくやってんだと…」  一気に暁の表情が真っ暗になった。 「そっか…きっぱりフラれたか。しょーがねーよ、あいつの好みはしずなんだもんな」  いつになく真面目に慰める紫苑。 「ま、もともと俺は高杉なんか全然いい男だと思わ」 「頼みがあるんだ」  高杉批判を遮って暁が口を開いた。 かなり真剣な表情に、紫苑も唾を飲んだ。 「何日かしたら伊…高杉さんの様子見に行って欲しいんだ。別れ際のあの人、様子ヘンだったし…」  振られてもなお『あの人』の心配をする暁に、紫苑は同情の念を禁じえなかった。 「そんなのあっきーが自分で行きゃー…」 「二度と顔見せるなって言われたんだ…最後に一つぐらい言うこと聞かねーと」  痛々しく笑う。 あっきーって、本当にあいつのこと好きだったんだな…。 「そう、なんだ…」  紫苑からの報告を聞いた静流は、一応気の毒そうな表情を一瞬見せたが、すぐにどうでもいいという風に顔をそむけた。 「でもいい気味だよ。あんなヤツ高杉さんが相手にするわけないじゃないか」  あんなに純真で一生懸命だった初恋の人を『あんなヤツ』呼ばわりされて、紫苑が黙っているはずは無かった。 「なんだよ、『あんなヤツ』って。お前まだ根に持ってんな?!」  そう言った瞬間静流が鬼瓦のような顔で振りかえった。 「当たり前だろ!!一生忘れないよあの屈辱は!紫苑はトリ頭だからわかんないだろーけどねっ」 「何だと?!人をアホみてーに!てめーこそどさくさに紛れて何タカスギの肩持ってんだよ!」 「高杉さんは紫苑やアイツと違って気品溢れる紳士だからね!」 「何っ?!俺と違ってってどーいう意味だよ!!」 …以下略。  頭の奥から鈍い痛みが走る。 体が鉛のように重い。 冷え切った暗い部屋で、高杉は最悪の目覚めを迎えた。  衣服も昨夜の正装のまま、傍らの小さなテーブルの上には飲みかけの酒が入ったグラス。  目をこすりながら鏡を覗くと、酷い顔の自分が映った。 最悪の気分に最悪の顔、最悪の体調で、高杉は今日も出勤する。

ともだちにシェアしよう!