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不屈のラブファイター 9
「暁?!ちょっと1ヶ月近くもどこ行ってたの?!」
母一人子一人で暮らしてきた実家に久々に戻る。
母はカンカンだったがそんな罵声も耳には入ってこない。
とっとと自室にこもり、ベッドに寝転がった。
最初から結果は見えていた。
初めて会ったのがあれだし、最初からずっと嫌われっぱなしだった。
静流とはまったく正反対だし…。
「あーあ!フラレちゃった~~~~っ」
一人大声で叫びながら寝返りを打った。
「…あ?」
いつものように本屋のレジで居眠りの紫苑の前に、暁が立っていた。
「あっきー店来んの久しぶりだなあ!全然来ねーから高杉とよろしくやってんだと…」
一気に暁の表情が真っ暗になった。
「そっか…きっぱりフラれたか。しょーがねーよ、あいつの好みはしずなんだもんな」
いつになく真面目に慰める紫苑。
「ま、もともと俺は高杉なんか全然いい男だと思わ」
「頼みがあるんだ」
高杉批判を遮って暁が口を開いた。
かなり真剣な表情に、紫苑も唾を飲んだ。
「何日かしたら伊…高杉さんの様子見に行って欲しいんだ。別れ際のあの人、様子ヘンだったし…」
振られてもなお『あの人』の心配をする暁に、紫苑は同情の念を禁じえなかった。
「そんなのあっきーが自分で行きゃー…」
「二度と顔見せるなって言われたんだ…最後に一つぐらい言うこと聞かねーと」
痛々しく笑う。
あっきーって、本当にあいつのこと好きだったんだな…。
「そう、なんだ…」
紫苑からの報告を聞いた静流は、一応気の毒そうな表情を一瞬見せたが、すぐにどうでもいいという風に顔をそむけた。
「でもいい気味だよ。あんなヤツ高杉さんが相手にするわけないじゃないか」
あんなに純真で一生懸命だった初恋の人を『あんなヤツ』呼ばわりされて、紫苑が黙っているはずは無かった。
「なんだよ、『あんなヤツ』って。お前まだ根に持ってんな?!」
そう言った瞬間静流が鬼瓦のような顔で振りかえった。
「当たり前だろ!!一生忘れないよあの屈辱は!紫苑はトリ頭だからわかんないだろーけどねっ」
「何だと?!人をアホみてーに!てめーこそどさくさに紛れて何タカスギの肩持ってんだよ!」
「高杉さんは紫苑やアイツと違って気品溢れる紳士だからね!」
「何っ?!俺と違ってってどーいう意味だよ!!」
…以下略。
頭の奥から鈍い痛みが走る。
体が鉛のように重い。
冷え切った暗い部屋で、高杉は最悪の目覚めを迎えた。
衣服も昨夜の正装のまま、傍らの小さなテーブルの上には飲みかけの酒が入ったグラス。
目をこすりながら鏡を覗くと、酷い顔の自分が映った。
最悪の気分に最悪の顔、最悪の体調で、高杉は今日も出勤する。
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