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不屈のラブファイター 11
「店長でしたら只今本社におります、午後にはこちらに…」
「待たせてもらうぞ」
紫苑は初恋の人・暁に頼まれ、単身敵地へ乗り込んだ。
そわそわする女性社員の視線もよそに、出されたコーヒーをすする。
「—―そうですか、それでわざわざ…でもご覧の通り、私は—―」
午後になって高杉が戻った。
紫苑の向かいに腰を下ろし、申し訳なさそうに少し笑む。そんな高杉の言葉を紫苑は遮った。目が鋭く光っている。
「『二度と顔見せんな』って、本当に言ったのか?」
凄みを利かせたはずが、全くこちらを見ようともせず、高杉はコーヒーカップに口をつけながらしれっと言った。
「ええ。あちらにもその方がいいと思ったので」
早くも紫苑の短い導火線に火が着いた。勢い良く立ち上がってテーブルを叩く。
「なんで!!それはてめーの勝手な言い分だ!なんでそれがあっきーのためなんだよ!お前がただあっきーのこと厄介だから…」
「そうですよ」
ため息か、熱いコーヒーを冷ましているのか分からない吐息をひとつ吐いて、高杉はちょっとうんざりといった様子で口を開いた。
「これ以上ちょろちょろされたら、殺しかねなかったんでね」
紫苑は自分の顔から血の気がひくのを感じた。
脅しや誇張ではない、本気だと感じたから。
そして、そんなセリフを今吐いたとは思えぬほど、何もなかったようにコーヒーを味わう男。久々に紫苑は人に対して恐怖を感じた。
「さ、最後に一つ聞いてもいいかな…なんでそこまで、あっきーのこと毛嫌いするんでしょうか…しずをあんな目に遭わせたから?」
すっかり低姿勢になって質問。
「…僕が必死で守っているものを平気で壊すから…かな」
もともと高杉のことなど良く知らぬ上に、少々足りない紫苑の頭では、そんな抽象的なことを言われてもさっぱり訳がわからなかった。
「よ、よーわからんが、俺はしずをたぶらかした上にあっきーまで傷つけたお前を絶対許さねー!」
言い捨てて紫苑は店を出た。
一人残された高杉は煙草を一本取り出し、火をつけた。
いいさ別に。
憎まれることには、慣れている。
そう思いながらも、高杉自身、苦しんでいた。
暁を前にして、間違いなく動揺していた。
平静を保てない時が多々あった。
誰の前でも臆することなく、完璧な男を演じてきた。
それが、他人と腹を割って付き合う権利を奪われた彼に課せられた罰なのだ。
それなのに。
止めた左手よりも、アイスピックを持った右手の力のほうが強かったら、一体どうなっていたのだろうか。
遠ざけることでしか自分を、そして他人を守ることが出来ない自分を高杉は嘲笑った。
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