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不屈のラブファイター 14
あの頃よりもまた少し痩せている。相変わらず顔色は悪い…。
「あんた、何やってんの、って…え…?」
タオルを落としたことに憤慨したチーフだったが、暁と小百合の婚約者が両者見詰め合ったまま動かないことに双方を見比べた。
「え、あの…お知り合い?」
「—―ええ、知人の友人とかで何度か。ねぇ?」
さすがに高杉の方は咄嗟にうまく取り繕ったが、暁は動かない。
厳しい表情でじっと高杉を見据える。
この場をどうにかしなければ、とチーフは思い、気を利かせた。
「さ、小百合さんもまだまだお時間かかりますので、宜しければお二人でお話でも…」
「それはいい。どうです?お茶の一杯でも」
高杉が爽やかに笑って暁を促し、二人は近くの喫茶店に入った。
「こんな風にお会いするとは…美容師でいらしたんですね」
いつものブラックを片手に、高杉は表向け用スマイルを張り付けている。
依然、暁は不快丸出しと言った顔でだんまりを決め込んだまま。
出てきたコーヒーにも口をつけない。
さすがの高杉も少し困った表情を浮かべた。
「どうしたんですか、どこか具合でも…」
言いかけた時、辛抱たまらんとばかりに暁が立ち上がり、口を開いた。
「気色悪いんだよ!前みたいに見下した喋り方すればいいだろうが」
店の中の人が皆、二人に注目している。
「見下したとは…」
「前みたいにもっと冷たくしてくれよ!」
暁の大声—―しかも内容が内容だけに—―で、店内はすっかりしんと静まり帰ってしまった。
「…表、出ましょう」
高杉に背中を押され、店を出るなり高杉の拳が暁の頬にめり込んだ。
「よくも恥をかかせてくれたな。せっかく感動の再会を味わわせてやったのに」
暁は殴られて倒れ込んだまま、高杉を見ずに言う。
「そのくらい困らせたっていいでしょう。…あの時の俺の痛みに比べたら…。しかも、自分がどんなに頑張っても振り向いてくれなかった人が、会社の為に結婚だなんて」
「お前の恨みつらみなど…」
顔を背ける高杉に、なおも続ける。
「この半年、ずっと思ってた。—―あんな言葉を浴びせるぐらいなら、どうしてあのまま刺してくれなかったのかって」
高杉の目の色が変わった。
つかつかと暁に歩み寄ると、髪を掴んで顔を上げさせた。
「ふざけるな。刺されたらこれよりもっと痛いんだぞ」
「わかってますよ」
今度は暁の手を取り、指を噛む。
「これよりもだ、わかるか」
「いででで、わかってますって!!」
暁がそう言うと高杉は暁の手を放って言った。
「『刺されてもいい』とか『死んでもいい』とか軽々しく口にするんじゃない。たとえ本人はそれで良くても…残された者はどうすればいい—―」
蹲り、肩を震わす高杉。
「伊織さん、すみません。俺…」
手を伸ばし、顔を覆う高杉の手を優しく握った。
高杉ははっとしてその手を振り解く。
「すまない…取り乱した」
「なんか…辛いこと、あったんですね」
問いには答えず、高杉は立ち上がって歩き出した。
「そろそろ戻らないと。この後パーティーが」
ふわりと、背中に優しい重みが乗った。
後ろから暁の手が回され、指先は高杉の唇をなぞる。
それ以上のことは何もせず、ただ頬を摺り寄せるようにしてに暁は言った。
「俺、愛人で構いませんから。小百合さん、大事にしてあげてくださいね」
高杉は答えず、そして振り帰りもせずに暁の手を払い退けた。
また殴られるか、それとも蹴られるのか?!とビクビクする暁が次に見たものは、今までに一度たりとも見たことのないような、邪念なしの、高杉の笑みだった。
「お前なら、そう言うと思ってたよ」
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