19 / 38
不屈のラブファイター 18
「お帰りなさいませ店長。速水様という方からお電話がありまして、もうすぐこちらに…」
店に戻り、店員からの報告を受けていると、早速速水様が登場した。
「高杉さんっ」
走ってきたのであろう、頬は上気して髪は風を受けて跳ね上がっている。
「ご結婚されるんですね、おめでとうございます!」
高杉は店員に応接室へコーヒーを二つ持ってくるよう言うと、静流を奥へ通した。
「今朝の新聞で知ったんです。奥様おめでたなんですってね」
いつもの聡明な顔立ちに、何か違和感が…。
「…ねぇ静流くん、さっきから言おう言おうと思ってたんですが…走ってきました?髪、ボサボサですよ」
高杉は静流の髪を優しく撫でた。
静流は赤くなって俯き、されるがままだ。
「…それで、思ったんですけど…高杉さん、どうして女の人と…」
高杉は撫でていた手をさりげなく静流の背中まで持っていき、両手を回した。
「あれは会社を大きくするための結婚で、親孝行みたいなものなんですよ。となれば一応後継ぎは必要なわけで…」
静流も応じるようにぴとっと体を預けてくるが、違う。
今必要なのは、今欲しいのは、この感触じゃない。
あの、解き放たれるような。
全ての苦しみから救われるような。
あの、ぬくもり。
部屋に戻っても、何もする気が起こらない。
この気持ちを自分で認めたくなかった。
認めたら、何かに負けてしまいそうな気がした。
引き出しの奥から、古びた写真を取り出す。
絵筆を持った中学生と、先生らしき人の写真。
高杉は心の中で写真に向かって問い掛ける。
また人を、あなた以外の人を愛してもいいですか、と。
ともだちにシェアしよう!