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不屈のラブファイター 20
ズルズルッ、ズズーッ。
部屋の中はそんな音でやかましいことこの上ない。
信じられないことに、この日初めて暁は高杉の部屋で食事をとることが出来たのだ。
「替え玉ぁ」
満足げにどんぶりを差し出す暁に、いつもの高杉節は復活していた。
「もうないわ!このゴクツブシが」
「じゃ伊織さんでもいいよ…」
「バカ」
くるりと背を向け、キッチンに戻ってしまう高杉、その後を追う暁。
「でもよかった、やっぱり諦めなくて」
んふーと後から抱き寄せるが、電話が鳴ってするりと高杉は暁の腕から離れていった。
電話の内容はよく分からないが、珍しく高杉が何やら怒鳴っている。
「私は何よりも仕事優先だ、彼女も分かってる。余計な口出しするんじゃない」
捨て台詞のように言い吐くと、プチ、と電源を切った。
「どうしたんですか」
異様な雰囲気に暁が心配して尋ねると、またヤり直しか、などぼやいていた高杉は鬱陶しそうに説明した。
「小百合が流産したんだと」
あまりにも普通に言うので、暁の方が驚いてしまった。
「えっ…じゃあ病院行ってあげなきゃぁ」
イヤだけど。本当は離れたくないけど。
本当はあんな女のところになんて行って欲しくないけど。
本当はずっと…
「俺はここにいることを選んだんだ。偽善者ぶらずに素直に喜べ」
考えていることが見透かされているようでちょっと慌ててしまったが、それも一理あると考えて、暁は発想の転換をした。
「ならもっと悦ばせてくださいよぅ」
気配を察知して身を引こうとする高杉よりも早く、暁が高杉を捕らえていた。
「字が違う、離せ!」
ケリを入れられると、今度は泣き落としだ。
「やっぱし俺のこと嫌いなんでしょ…」
恨みがましい目つきで高杉を見つめる。高杉だって負けてはいない。
「『好き=やる』のか、このケダモノめ」
『ケダモノ』呼ばわりにKOされた暁はその場に崩れた。
高杉はやっと解放され、寝床につく準備を始めた。
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