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Don't Be 2

二か月ほど経ったある日のこと。 「この子に高杉を継がせようと思う」  静かに、だが力のこもった声で、ゆっくりと夫は告げた。 「ご自分で何をおっしゃってるかわかってるの……?そんなの私が承知するわけ……」  高杉夫妻は結婚して十年になるが、子宝に恵まれなかった。当時可能な限りの、ありとあらゆる治療を施してみたが、ダメだったのだ。そろそろ養子を取ることも考えるべきかと悩んでいた時期でもあった。 「現実的に考えてくれ。私たちの間に子供が授かることはないだろう。養子といっても所詮他人の子、この子は……少なくとも私の血を分けた子なんだ」 「勝手なことばかりおっしゃらないで!私の血はこれっぽっちもない、それどころかあんな女の血を分けた子なんて、私がはいそうですかと育てられると思って?!ご自分がなさったこと、おわかりなんですか?!」  長年の出口の見えない不妊治療、お金も心も削られる。そんな最中に夫に裏切られ、さらに子どもまで作られた挙句、今度はその子を育てろとは。妻の怒り、悔しさ、憎しみは想像に余るものがあった。だがしかし悲しいかな、この二人も家同士の結婚。離婚することも叶わないのであった。  赤子の声で目が醒める。時計は午前二時を指している。 「もう、またなの?!ちゃんとミルク与えたんでしょうね?!」 「はい、一時間ほど前に」 「じゃあなんでまた泣いてるのよ!!ああ眠れやしない、あの子を離れにでもうつしてちょうだい」  乳母を雇って赤子との生活が始まった。実の母でさえ、母性溢れる母親でさえも、産後すぐ始まる子育てには疲れや苛立ちが募るものだ。そうでない人間はなおさらだった。  赤子は伊織と名付けられたが、妻、――一応母となったわけだが――がその名を呼ぶことはなかった。

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