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Don't Be 3

 二歳を過ぎる頃には数々の習い事を課せられ、夕方までは家にいないようにスケジュールを組まれた。  乳母がそのままシッターとして雇われていたが、愛情をかけることはなく、やらされた仕事を事務的にこなし、言われた以上のことはやらないタイプの女性だったし、習い事には専属の運転手がついたが、その男もまた会話もなく車を往復させるだけのロボットのような存在だった。  母は伊織のいない間は家で優雅にティーパーティーを開いてみたり、一人で編み物を楽しんだりして過ごし、夕方伊織が戻る頃にはオフィスや自室に移動する生活。伊織が母と顔を合わすのは、週に一、二度あるかないかだったし、顔を合わせれば罵倒された。 「だんだんあの女に似てくるんだからたまらないわね!なんであの女と一緒に死ななかったのかしら」 「あの女、最後にサイテーな置き土産残して死んでくれたわね……一生許さない」 「あんたなんて産まれてきちゃいけなかったのよ、わかってる?」  浴びせられた言葉の意味はわからないながらも、伊織はこの女を恐れていたし、忌み嫌っていた。 父はそれなりに可愛がってくれたが、全国を飛び回っていたのでほとんど家にはいなかった。結局、伊織が接する人間といえば、シッターと運転手、あとは習い事の先生や子どもたち。習い事先の人々は、『高杉の坊ちゃん』だということで腫れ物のように扱い、友達もできなかった。  高杉の跡継ぎとして恥ずかしくないようにと、幼児知能教室に始まり茶道、華道、剣道、柔道、合気道を二歳から叩き込まれていた反面、食事のマナー、挨拶をする、などの基本的な『人としてのしつけ』は全くなされていなかった。相手を思いやる気持ち、物や人を大切にする心なども、もちろん持ち合わせていない。周りにお手本となる人、教えてくれるがいないのだから。

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