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Don't Be 9

 それからというもの、週に一度くらいのペースで、稔は伊織を抱いた。伊織の稔への気持ちは変わらない、しかし性行為そのものは何度やっても好きになれなかった。好きでやっているのではないのに、体は否応なく反応し、意に反して恥ずかしい声をあげ汚い液を飛び散らしてしまう。自分が自分でなくなってしまうのがたまらなく嫌で、終わった後は自己嫌悪に苛まれる。 「伊織、明日どこか行かない?」  もう誰もいなくなった美術室。伊織だけがまだ残って文化祭に出展する大判の絵を完成させようとしているところだった。 「どこかって?」 「伊織好きなとこ連れてってやる。どこでもいいぞー、遊園でも水族館でも……」  伊織が目を輝かせてきょろきょろする。 「ずっと、来てみたかったんです……!」 「……あー、あんまり遠く行くなよー」  棒読みで稔が答える。ここは繁華街にある大きな画材屋。 どこでもいいって言ったけどさ、稔は内心むくれている。もっと、デートっぽいところへ行きたかった。 「かなり絞ったんですが……」  持って来た山ほどの絵の具を買ってやる。ま、いいか、可愛いし。 食事をして少しドライブして、デートは終了。家まで送ってやると稔は引いた。 なんじゃこの豪邸は。 「先生…」  チュッ。 稔には、何が起こったのかわからない。 「今日はありがとう、楽しかったです。じゃあ、また月曜日に」  照れたように笑って走り去る伊織に、返事もできずボーっとする稔。  あの子から、キスして来た…。  稔は徹底的に伊織を溺愛し、甘やかした。伊織のことを本当に考えているなら、勉強のことや友人関係について、大人として、導いてやるべき立場だというのに、ひたすら可愛がり、庇護するばかり。何なら他の人間とは関わらないでいい、そう思っているようにも見えた。  伊織もそんな稔のことを日に日に好きになり、今まで誰からも受け取れなかった愛情を、まとめて与えられている気分だった。人から好意を寄せられることが、こんなに嬉しいことだったなんて、知らなかった。生まれて初めて、生きることが楽しくなっていた。  モノクロだった伊織の世界に、鮮やかな色彩で稔がペイントして行く。それを見て喜ぶ伊織を見て、稔もまた満足するのだった。

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