36 / 38

Don't Be 11

 頭がおかしくなってしまったのではないか、と思う。四六時中、稔が誰といるのか気になって仕方がない。向かいの校舎の廊下で別の生徒と楽しげに話しているのを見かけたり、窓から見下ろしたグランドの端で女子生徒に囲まれていたり、そんな場面を嫌でも何度も目撃してしまうのだ。そしてその後必ず、心に澱のようなものが沈殿して、重くのしかかってくる。こんなことは初めての体験で、その感情と向き合うのがひどくめんどうで、怖かった。  今会えば、不条理な文句ばかりぶつけてしまいそうなので、しばらく美術室に通うのをやめた。  ぼくは先生以外とは仲良くしないのに、先生は誰とでも仲良くするのが嫌。 でも言えない。二人でいるときの稔は何の不満もなく優しかったし、愛されていると実感できた。だからこそ、自分だけを見てほしい。自分だけのものになってほしい。  それは嫉妬という、誰もが当たり前に持っているいたって正常な感情だったのだけれど、伊織にはそれが、愚かな自分だけが抱く特別醜い感情なのだと思っていたので、稔に知られるわけにはいかなかったのだ。  稔は伊織に怒ることは全くなかったが、伊織が自分のことを酷く言う時だけは静かに叱った。 「自分のことをそんな風に言うんじゃない。伊織は本当に可愛くて綺麗で、素敵な子なんだからね?」  呪文のように、何度もなんどもそう言うのだった。

ともだちにシェアしよう!