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第9話
ーーいっそあの時、ぼくを殺してくれればよかった
そう伝えた背中は何も言わない。
それは半分本心で、半分嘘。
本心の分は、消えてしまいたい自分の分。
嘘の分は、罪を犯さずに済んだ斎の分。
ーーまさかまたここに戻ってくることになるとは思わなかったな。
ぼくは実家の離れに連れてこられた。
古い木造日本家屋。
何を隠そう、ここは元ぼくの部屋だ。
だが、出てくるときに荷物はほぼ全て処分したから、その名残はほとんどない。
家具もほぼ取り替えられていて、まるでぼくがここにいたことを全て消し去ったかのようになっていた。
部屋にはベッドとテレビ、そして別室にユニットバスが備え付けられており、来客があったときに泊まれるようにしてあるのだろう。
頻繁に清掃もされていたようで、新しくはないが清潔な部屋だ。
食事は入り口を入ったところに、朝昼晩と丁寧に置いてくれるのだが食欲がない。
あまり口をつけずに盆を戻すことになる。
あれから有無を言わさず、と言った勢いで着の身着のままここに連れてこられたせいで、せいぜい持って来れたのは抑制剤くらいだった。
それだけは、どうしても、と頼み込んで持ってきた。
他は、パソコンは勿論、スマホも財布も何も無い。
着るものは、恐らく斎のものと思われるパーカーをスウェットを渡された。
袖を通すと一回り大きい。
間違いなく、昔々のその昔はぼくの方が大きかったのに、悲しいかないつの間にか(比較的早い段階で)体も力も斎に敵わなくなっていた。
仕事が忙しいのか、あれから斎が部屋に訪れることもなく、発情期もようやく終盤だ。
色んなことがありすぎて、体も心も重い。
なのに、止まらない性欲で、未だ何度も精を吐き出していた。
夜も深くなってきた頃、ぐったりとベッドに横たわっているとギィと古い蝶番の音がする。
「……斎…」
「そんなイヤそうな顔するなよ」
イヤそうな顔、しているのだろうか。
ベッドまでやってくると、端に腰を下ろし、膝に肘をのせ、顎に手をついてぼくの方をじっと見つめる。
ぼくはだるい体を起こし、距離を取るよう、反対側のベッドの隅に体育座りした。
「今日は何回したの?」
「え…」
予想外の質問。今日の爛れた一日がふっと脳裏を過って顔が熱くなる。
「発情期でしょ」
「ば、ばかじゃないの!そんなの数えてるわけ…」
「数えきれないくらいしたんだ」
「…!ちがっ!」
慌てるぼくに、憐れむような視線を向けてくる。
「いいんだよ、発情期の静はそれが仕事だろ?だからね、静」
あ、とわざとらしく一呼吸おいて
「静は社会に出てないからわからないかな」
と、クスクス笑っている。
「な…」
「ホウレンソウって知ってる?」
「し、知ってるよ」
「知ってるんなら話が早い。しっかり報告の仕方、教えてやるから」
言うが早いか、ぼくの両腕を後ろに回し、何かを嵌めた。
「ちょっ、何すっ…!」
両腕は、どうしたって離れない。
「大人しくしろよ、人が来るだろ」
ぐっ、とベッドに押さえつけられる。
「…!」
「それとも見られたいの?コレ、挿れられるとこ」
T字のような形をした器具を手に、斎が笑っている。
「何言って…」
「コレ知ってる?」
震えながら首を横に振ると、それにローションを垂らしつつ
「エネマグラ」
そう言った。
「や、やめて、ほんとに…」
「大丈夫だよ、医療器具みたいなもんだから」
ほら、体横に向けて、とぼくを転がしズボンを膝まで下ろすと後ろを指で弄る。
「…っあ…あっ…!」
さっき達したはずなのに、発情期の体はまたすぐ熱を帯び始める。
すぐに前が勃上がってしまう。
「想像以上にぐずぐずになってるんだけど。あ。」
「ひゃ…ぁぁん」
「ここ、ぷっくりしてる」
前立腺をぐりぐりと確認すると指を抜いた。
「あ…ああ…」
その刺激で、既に体がビクビクと、更なる刺激を求め出す。
「すごく欲しがってるよ」
ほら。それが合図のように異物が差し込まれる。
「ああああっ、いや、出して…!」
「ほら、静のここ、すごく飲み込んでるよ。ちゃんと報告して」
「ひっ、あっ、あっ…!!」
ズル、と上半身を持ち上げられると、臀部に体重がかかりさらに深く刺さっていく。
びくっと腰を反らせると、抱きかかえられるように脇の間、後ろから手を回され、敏感な胸の突起を責められる。
「中、良くなるまで、こっち、してやるよ」
「ああああん!ダメっ、いじらないでっ」
イヤイヤをしながら悶えても、斎の加虐欲に火をつけるだけだ。
「はっ…はっ…」
次第に、中のものをはっきりと感じられるようになり、呼吸が浅くなる。
「ほら、どうなってるの」
「あっ、当たってるっ、ん…!」
「どこ?」
「奥の、変なかんじ、の」
「変?」
ぐりっと器具を動かすと、強く前立腺を押した。
「ひゃあああ!や、ヤ、なとこ」
「どれ」
今度はうつ伏せにされ、膝を折り尻を持ち上げた状態にされる。
「こんなにヒクつかせて、ヤじゃないだろ」
「あ…ああ…」
気がつくと、自分で筋肉を収縮させている。
そして、無意識に腰が揺れだす。前の屹立を扱きたくてたまらない。
シーツに押しつけて、擦ろうとしたところで腰を持ち上げられ、ぐっと根本を戒められる。
「どんだけ淫乱なんだよ」
「いっ…!やっ、おねがっ、イかせてっ…」
「後ろでイけよ」
「やだ…うしろはっ、イきたくない…」
「なんで」
「死んじゃうっ、ずっと、止まらないから」
はっはっ、と呼吸が荒くなり、全身がぞわぞわと痺れる。
「あっあああああ、や、きたっ…!」
奥の方から死にそうな快感が突き上げてきて、全てを振り払うように全身をくねらせる。
「ひゃあああああ…!!!」
頭の中が真っ白になる。
意識が途切れる瞬間、目の端で、斎が目を細めているのが見え、走馬灯のように昔のことが蘇る。
「…いっそあの時、ぼくを殺してくれればよかった」
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