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第5話
「オオカミ男さんはさ、お金持ちなの?」
ジュゴッ!とストローでジュースを飲みながら、京介は男に聞いた。おっさんは“遠慮”という2文字を忘れているのか、好き勝手に部屋で過ごしている。
過ごしていて感じるのだ。この部屋の豪華さを。ベッドやソファーはフカフカだし、冷蔵庫の中に入っている飲み物は、すべて高級品。京介が飲んでいるジュースも高級品だ。
自分よりも若い男が、こんな豪華な部屋をヤリ部屋にするなんて。どんだけ金持ちなんだよと思った結果、聞くことにしたのだ。
しかし、男は京介の質問に答えることはしなかった。ただスマホを弄ったり、小説を読んだり。京介の存在をないもののようにして過ごしていた。
「おーい。おーい!聞けよ、答えてくれよ」
「っ、うるせーな」
「だってさ、暇なんだもん俺」
「だったら仕事に戻るか?」
男はギロリと京介を睨むと、ドアの方を指差す。もう、あんなところに戻りたくないと思っていた京介は、おとなしくすることにした。
おとなしくすると決めたが、本当に何もすることがない。スマホとかは持ってきてないし、部屋の探検もした。
暇だなーっとキョロキョロと部屋の中を見回していた時だ。男がまだオオカミのコスプレをしていることに気づく。
もうパーティー会場から出たのに、律儀だなと。興味本意で頭につけられた耳に手を伸ばした。
ふわっ。
この世のものとは思えないようなフカフカさ。京介がヤバイと思って、耳を触る手に力を間違って入れてしまった。
すると、その耳がピクリと動いたように感じたのだ。
「え?」
京介がそう思った瞬間と、男が動き出す瞬間が同時だった。男は動いたと思ったら、京介をベッドの上に押し倒した。
「え、あの、」
「ったく。おとなしくしてたら、良かったものの」
「え?それはどういう、」
「気が変わった」
“お前を喰う”
男はそれだけ言って、何が起こっているのか理解が出来ていない京介の口を自分のそれで塞いだ。
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