自分に『親友』という存在が出来て数年。 ゲーム開発を主にする会社、エイトクリエイティブの営業主任を任されてからはもうどれだけの年月が経ったのだろうか。 同じことを繰り返す日々に僅かだが『飽き』を感じてしまった春のこと、まさかこれから嵐のような日々が始まるだなんてこの時は全く思いもしなかった。 「ねぇねぇ、オジサン何て名前？」 それは昼休みの喫煙所、時代の流れで健康志向が増えたからなのか...利用者が減ったこの場所で見知らぬ顔と出会うことなど滅多にないはずなのに『それ』は突然現れた。 「.........」 「え、無視？オジサンしかいないでしょ、ココ。」 肩に触れるか触れないか、男らしくないと感じる長さの茶色い髪を揺らす『それ』は俺を指差し首を傾げた。 オジサン...確かに今年35になる自分は世間一般的にそう呼ばれてもおかしくない年齢だ。 「ねぇー？聞いてる？」 見た目のイメージより低い声を放つ『それ』は可愛さなんてものは無く、どちらかと言えばヤンキー...いや、柄の悪い...そう、不良少年と言ったらいいのだろうか。まだその顔つきは幼く見えて、自分を『オジサン』と呼ぶ位に若いのだろう。 とはいえ初対面の人間に敬語も使わず馴れ馴れしく話掛けることは社会人として許すことは出来ない。 真面目な家庭で育った自分には、『あり得ないこと』だった。 「敬語も使えない奴に名乗る気は無い。」 まだ長かった煙草の火を消し、それだけ言い残し喫煙所を出る。 その瞬間、顔に似合わず綺麗な瞳と目が合った。ずっと目を合わせていたら吸い込まれてしまいそうな、初めて見る綺麗な瞳。 それがやっとの思いで追加された新入社員であると知ったのは、数日後のことだった。