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第4話

「山元主任?大丈夫ですか?」 長年共に働いてきた女性社員に声を掛けられハッとする。 ーーーそうだ、懐かしがっている場合じゃない。 自分は今から新入社員が集まる会議室へ『お迎え』に行く所だったのだ。 普段ならこんなこと考えたりなどしないのに...やはりあの頃の事になると『自分らしくない』。 「ああ、大丈夫だ。」 「ならいいですけど...?珍しいですね、主任がボーっとするの。」 不思議そうにそう言った彼女は、俺が過去に男性に恋したことや嫉妬に狂ったことなど知りもしないのだろう。 俺自身、このことは関係したあの四人以外に話すつもりは全く無いのだから...。 ***** 「ーーー説明は以上です。これからそれぞれ配属先の先輩方があなた達を勤務先の部署へ案内します。名前を呼ばれたらー.....」 会社のシステムや大まかな仕事の流れなどを説明するのは総務課のお局と呼ばれる女性。 そういえば俺が入社した時もこの女性から説明を受けたような気がする。 少し高めの声が新入社員たちの名前を呼ぶと、『はい、』と緊張混じりの返事が聞こえ、それを可愛らしいと言わんばかりに微笑みながら見つめる上司たちが居た。 「次は営業部、クキ マコトさん」 営業部、という言葉に少し胸を弾ませまた。 久しぶりの、いや、やっと迎える新入社員。 名前からして男なのだろう。 「はい」 他の新入社員よりも、迷いの無いハッキリとした返事。 掛けていた椅子から立ち上がる姿はどこか自信に溢れていたことに少し驚いた俺だったが、この声に聞き覚えがあるような気がしてその声の持ち主の方を見て更に驚くこととなる。 黒いスーツに水色のネクタイ、茶色い髪はゴムで短く結ばれていて、『あの日』見た時より『真面目』な格好をしてはいたけれどーーー 「九鬼 誠です。...よろしくね、オジサン。」 ペロッと舌を出しそう言った男は、生意気そうにそう言った。 その後会議室をザワつかせ、早々に『問題児』扱いされることになったのだが、そんなことどうでもいいと言わんばかりに九鬼 誠は俺の元に寄ってきて、再び『オジサンの名前!教えてよ!』と笑ったのだった。

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