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第5話
ーーそんな忘れるに忘れ難い出来事から半年。
(なんなんだ...あのクソ野郎は...!!!)
社内に一つある喫煙所、いつしかそこに数時間置きに通うようになっていた俺は珍しくイライラした感情を隠せずにいた。
理由は一つ。あの問題児、九鬼 誠の存在だった。
半年前、俺をオジサンと呼びあまり良い印象を残さなかったそれは、その後見事に問題ばかり起こすようになった。
仕事の覚えが悪いとか、ミスをしたとかそんなことならまだ許せる。
口が上手く明るい性格の九鬼は気配りも出来れば物覚えも良く、外回りに同行させれば皆良い反応をすることは良かった。
が、コイツはそんな仕事中に声を掛けられた女性に連絡先を教えていたり、プライベートで会っていたり、食事だけならまだしも一夜を共に過ごすこともあったり...
そのことを特に隠そうともせず、ペラペラと社内で口にしていた九鬼のイメージは『軽い男』となり、
『九鬼くんって、枕営業してるんだって』
いつしかそんな噂が社内に広まり、お偉いさん方の耳にも届く程になってしまっていたのだ。
ここまで来ると上も黙っていない。が、ホワイトなイメージを守りたいのか、九鬼に直接注意する前に指導者である俺に『噂は事実なのか』『きちんと指導しているのか』と質問攻めの書類を渡してきた。
...これが今イラついている理由だ。
(枕営業だと?こっちがどれだけ真剣に働いて契約取ってると思ってるんだ...?)
トントン、と灰を落とす指に力が入る。
九鬼が絡む商談は、小さなものから大きなものまでこの噂がセットで付いてくるのだ。
ならば九鬼を外せばいい、と思ったのだが女絡みのことを除けばコイツは営業向きなタイプなことは間違いなかった。相手の懐に入るスピードは一番速いかもしれない。
(...だからと言ってもう見逃すことは出来ない。あんな問題児、辞めるべきだ...!)
グシャ、と力任せに火を消し喫煙所を出る。
ーーー決めた。『指導者』らしく『厳しく注意』してやる。その結果アイツが辞めることになっても構わない。
部署に戻るなり九鬼を呼び、今晩話があるから空けておけと言った俺に、九鬼は素直に...そして生意気に、はぁい』と返事をした。
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