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第6話
(...よし、一通り終わったな)
終業時刻を少し過ぎた頃、今日やるべき仕事に区切りがついた事を確認し、グーッと伸びをする。外回りの方が好きな俺は1日自席で過ごすと身体が硬くなるようで、どうもこの感覚に慣れることができない。
「お疲れ様でーす」
「...逃げなかったな」
「当たり前でしょ?山元主任の奢りで飯食えるんだから、逃げるとかあり得ないって。」
「お前な...!」
「あーお腹すいたっ。何処行きます?俺酒旨い所がいいんだけどー。」
九鬼は早々に帰宅準備を済ませると、スマホで店探しをしながら時間を潰していたようで、『こことかどう?』なんて言いながら俺に近付いてきた。
これから俺が怒ろうとしているだなんて、微塵も感じていないような...そんな態度に更にイラっとする。
「...近寄るな。」
「なんで?あ、ここにしよ!日本酒メインだって」
「はぁ...もう何処でもいい」
「んじゃ、予約しとこーっと。電車移動しますけど大丈夫ですよね?」
「...勝手にしろ」
自分が放つピリピリした空気、それを他の社員は皆感じていたと思って反省もしていたのに、当の本人には全く気付かれていない。
スマホを持つ手を素早く動かし、『予約完了』と微笑んだコイツは、きっと頭がおかしいのだ、そう自分に言い聞かせ後に泣かせてやるからなと心の中で呟いた。
「はぁ~楽しみ。飯も旨いといいな~。」
「......」
「ね?山元主任?」
「...はぁ...」
やけに楽しそうにそう言った九鬼は、まるで『これからデートなの』とはしゃぐ女のようだった。
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