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第7話
普段は乗ることのない電車に乗り、数駅離れた静かな町のある通りに九鬼が予約したという居酒屋はあった。
てっきりチェーン店かと思い込んでいた俺だったが、予想とは違いそこは落ち着いていて洒落た雰囲気を出した店だった。
「ネット予約した九鬼です」
「お待ちしておりました。奥の個室へどうぞ。」
店内はカウンター席を除き個室メイン。
談笑する声は聞こえたものの、それは下品なものではなくて、九鬼の選ぶ店のイメージとは180度異なるものだった。
ーーー相手が九鬼じゃなければ楽しめたかもしれない...
そう思いながら上着を脱ぐ。
「あ、上着貸して?こっちにハンガーあるから」
「あ、ああ...」
「山元主任何呑む?」
「...アルコールは控えている」
「え?そうなの?」
ちぇ、と口を尖らせながら俺と自分の上着をハンガーに掛ける九鬼。
それも俺のイメージとは異なる行動で少し驚いてしまう。
感心したと言うと大袈裟だが、気の利いた事など出来るはずかないと思い込んでいたからこそ意外だったのだ。
それから九鬼はメニューを俺に渡したが、特に何が食べたいという訳でもなかったので注文は九鬼任せ。
そもそも俺は九鬼と飯を食べに来た訳でも呑みに来たの訳でもない。コイツに説教するためにわざわざこうして二人になっているのだ。
「九鬼。お前何故俺に呼ばれたのか分かっているか?」
「え?あー、まあ。でもそれ後にしていい?まずは飯!酒!」
おしぼりで手を拭きながら、また九鬼は笑った。
はぁ、とため息を吐いた所で飲み物とお通しが来て、せっかく食べ頃の物を用意してくれてるのにすぐに食べないのは作り手に悪いでしょ?と九鬼がまたしても似合わない事を言うもんだから、流されるように食事をすることにした。
今思えば、この時から俺は九鬼の押しに何故か弱かったのかもしれない。
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