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第8話
そもそも自炊が趣味のような俺は、外食があまり好きではない。
自分でレシピを見て再現したり、アレンジしたり、そうやって作る味が好きだったのだ。
今まで外食するとなると、それは会社の付き合いくらい。場所もチェーン店がほとんどで、正直味に期待なんて出来やしなかった。
この店は外観や店内の雰囲気から少し期待は出来たものの、九鬼が選んだ店だ。そこまでの店ではないだろうと、失礼ながらに思っていたのだが...
「だし巻き超美味い!」
「ああ。茶碗蒸しも絶品だったぞ」
「ね!美味いよね?あーーー!腹に染みるーっ」
「天婦羅は食べたか?野菜も食べろよ?」
「食べる食べる!あ、酒お代わりしよーっと」
季節の野菜を使った天婦羅、新鮮な刺身、優しい出汁の茶碗蒸しに、だし巻き玉子...
九鬼が注文した料理は、そのどれもが驚く程に美味しかった。
味だけでなく、料理が盛られた器も一つ一つ選ばれた物なのだろう。見た目でも楽しめるような、そんな料理に俺は久しぶりに興奮した。
初めに注文した料理はすぐに食べ終わり、酒の注文をする九鬼と一緒に他の料理も追加で注文。
それを二度、三度と繰り返すうちに俺は何故ここへ九鬼と居るのか...本題を忘れかけてしまうほど夢中になって料理を味わっていた。
*****
「おい九鬼、デザートはどうする」
「ま、まだ食べるの?」
「当たり前だ。俺は...この柚子のジェラートにする。」
「俺はいいや~。酒だけお代わりする。」
そろそろ満腹に近くなり、メニュー終盤のデザート欄を見ながら九鬼に声を掛けると、その顔は来たときよりも赤く火照っているように見えた。
が、特に言動に変わりはなかったから酒に弱い訳ではないのだろう。
よく食べるねぇ、とヘラヘラ笑う九鬼を見ながら食べたジェラートは、スッキリした甘さでとても美味しかった。
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