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第9話
「...どう?美味しかった?」
ジェラートを食べ終え、美味しさの余韻に浸る俺に満足そうに目を細めた九鬼は言った。
「...ああ。想像以上に...」
「よかった。ここ、山元主任好みの店だと思ったんだよねぇ...」
「ハッ、お前が俺の何を知ってるんだ?」
「知ってるよ?料理の好みとかさ。本当はお酒も呑んで欲しかったんだけど...それはまた今度かな?」
ふふ、と笑うと九鬼はトイレに行くと立ち上がった。
一瞬フラつくように壁にもたれ、『待っててね』と言葉を残して。
(俺好みの店...か。確かにこの店は好みだったな。味だけじゃなく落ち着いた雰囲気もテーブル席じゃなくて畳のこの個室も...)
膨れ上がった腹に手を当てながら九鬼の帰りを待つこと数分。
戻ってきた九鬼は何故か店員と一緒だった。
「おい...九鬼...?」
「すいませ...ちょっと...酔いが...」
「お前強いんじゃなかったのか?」
「へ...へへ...」
足に力は入っておらず、苦笑いする店員の肩を借りてでないと戻ってこれなかったのだろう。ヘロヘロ、という表現がぴったりな九鬼は徐々に口数が減っていく。
自身の上着を羽織り九鬼の上着を片手に持ち、店員の肩から自分の肩へ九鬼を移動させた所でガクン、と体重がかかった。
ーーーコイツ、寝てるのか...?
会計を済ませ外に出ようとすると、店員から『お代はお連れ様から頂いておりますので』と言われてしまった。
あれだけ『主任の奢りで』なんて言っていたくせに何なんだ?
部下に、ましてやまだ入社して半年の問題児に奢られるだなんて...
『美味しかったです、また来ます』と伝え店の外に出ると、少し肌寒さを感じた。
ーーそして俺はハッと正気に戻ったのだ。
コイツと共に飯を食べに来ただけじゃない、本来の目的を。
「おい...おい、九鬼!」
「...ん...」
「起きろ九鬼!まだ話が残っている!」
「..........んん」
完全に力の抜けた身体と閉じた瞼。
ああもう、なんでこんなことに!と空いている手で髪を掻きながら、『やっぱりコイツは問題児だ!!』と叫びたい気持ちを必死に抑えた。
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