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第10話
(...っくそ、なんでこんなことに...)
店から出てすぐ、九鬼を支え歩くことは難しいと判断した俺は情けない気持ちと共に再び店の扉を開けた。
それはタクシーの手配を頼むため。
いくら駅に近い店だと言えど、電車に慣れていない上にコイツの家も住所も知らない。
このまま放って帰ろうかと思ったが、九鬼には食事代を払ってもらっていることがあったからなのか...自分の中の良心が『仕方ないから自宅に連れて帰る』ことを選択した。
店主は快くタクシー会社に電話をしてくれて、タクシーも数分後に店の前に到着し、自宅までも渋滞なくたどり着くことができた。
...コイツが居なければ問題は無かったのだけれど。
数時間前に働いていた会社のすぐ側に建つ、年季の入った一軒家。自分の理想の暮らしをするために購入した心安らぐ自宅に、こんな男を招くことになったのは本当に腹が立つ。
なんとか家の中まで九鬼を運び、朝畳み忘れた敷布団の上にありったけの嫌味を込めてゴロン!と転がしてやったのに、全く起きる気配は無い。
それどころか九鬼は口元を緩ませながら、スヤスヤと幸せそうに眠っているのだ。
(はぁ...。風呂にでも入るか...)
寝ている相手に説教をしても意味がない。
起こした所でどうせ酔っ払いだ。
幸い明日は土曜日で、仕事は休み。営業部は余程の繁忙期を除き土日休みの部署だからコイツが起きてから思う存分説教してやることにしよう。
気持ちよさそうに寝息を立てる九鬼を見て
はぁ、とまた一つため息を残し風呂場へ向かった。
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