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第14話

コーヒーメーカーを眺める九鬼を横目に、鞄から煙草の箱とライターを取り出すと、九鬼の目線が自分の手元に動いた。 「主任って、ずっとその煙草吸ってるの?」 「...それが何か。」 「別に?あ、一本ちょーだい」 「......」 何処にでも売っていて、同じ銘柄を吸う人も多いそんな昔からある煙草に何の興味があったのか。 箱ごと九鬼に渡すと、そこから一本取り出し口に咥えた。 『コイツも喫煙者だったのか』 ライターの火を近付け、一息吐きながらそんなことを考える。...思い出せば初めてコイツと会ったのも喫煙所だったのだから、元々そうだったのだろう。 同じように火を当て煙を吐く九鬼は、清純なイメージが無いからなのか違和感は全くと言っていい程に見当たらない。 ポタリ、ポタリとコーヒーが落ちる中、少しの間無言の静かな時間が流れる。 (...説教するなら、今か...?) そう思った時だった。 「俺、仕事辞めたくない」 そう小さく呟いたのは九鬼だった。 これから俺に説教されることを、そしてその結果俺が何を言おうとしているのか分かっているかのような言葉。 「迷惑しかかけてないのは分かってる。でも...俺...っ、」 ポタリ、ポタリーーー コーヒーの落ちる音に紛れて、床に落ちるのは透明な雫。 それが九鬼の涙だと気付いたのは、あれだけ明るく話す低い声が急に細く震えたからだった。 「お...おい...九鬼...?」 「っ、ごめ...じゃなくて、すいませ...っ、」 コンロの脇に置いてある灰皿にまだ長い煙草を擦り付け、九鬼は服の袖で顔を隠す。 嗚咽を漏らしながら肩を震わす九鬼はこれから説教しようとしていた気力を削ぐもので、そして普段の態度からじゃ考えられない姿にただただ驚く。 (何なんだコイツ...くそ...これじゃ怒るに怒れないだろうが...) いくら自分が怒り狂っていて、イライラしていて、その全ての原因がコイツだったとしても... 『辞めたくない』と涙を流す部下に、それもまだ入って半年の部下に追い討ちを掛けるように説教する程自分は鬼じゃない。 もしかしたらコイツの態度や言動には理由があるのかもしれない、そう思うと芽生えた『指導者』としての良心。 短くなった煙草の火を消し、震える九鬼の肩をトントンと撫でると、九鬼は鼻をすすりながら俺を見た。

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