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第16話
一つ、一人で眠れそうな日は自宅に戻ること。
二つ、『山元家のルール』には従いそれを守ること。
三つ、共に眠ってくれる相手を探す努力をすること。
俺は三つ条件を出した上で、あの日泣き崩れた九鬼に上司として出来る、ある提案をした。
それは『自分と共に眠ればいいだろう』という、自分でも驚くような提案だ。
あの短い時間で考えた結果、男で上司の俺と夜を過ごせば、軽いとか枕営業だとかそんな噂は起きないだろう、という結論に至った。
ーーー勿論仕事に対する姿勢が改善されなければこの話は白紙に戻すし、上にも良い報告は出来ない、と付け加えて。
「...いいの?一緒に寝てくれるの?」
「ああ。」
「朝起きて、ちゃんと横に居てくれる...?」
「お前が寝坊しなければな。」
「...頑張る...、山元主任、お願いします...!」
涙の跡が残る顔をくしゃくしゃにしながら笑った九鬼は、このことで相当悩んでいたと語った。
正直病院にかかればいいのではないか?と思ったが、嬉しそうに笑う九鬼に『今言うことでもないか』と思ってしまいその言葉は胸の中に抑えた。
それに三つ目の条件がある。俺では無い他の誰か...共に眠ってくれる相手を見つける努力。この条件があるのだから、永遠に続くものでもないだろう。
九鬼が落ち着くまで、それであの噂が消えてコイツが一人前に育てばそれでいい。期間限定の添い寝ボランティアだと思えば...。
「あと一応、このことは会社では黙っておくように。」
「うん、分かった。」
「そもそも会社から家まで距離がほぼ無いからな。一緒に居すぎて万が一変な噂でも立ったら面倒だ。」
「変な噂って?」
「...有り得ない話だが、その...俺とお前が...恋愛関係にあるとかそういう噂だ。」
自意識過剰かもしれないが、九鬼に片思いの相手が居ると聞いた以上拗れた事にはなりたくない。それに噂なんてあっという間に広がるものだ。俺自身は性別問わず誰が誰と付き合おうと偏見は無いが、仕事柄そうじゃない人間は数多く出会ってきた。だからこそ口の軽い九鬼には釘を刺しておかなければならない。
「...山元主任に迷惑かけないようにする。約束する。」
「頼んだぞ。」
ーーーーこうして俺の提案に乗った九鬼と、言葉にしにくいおかしな生活が始まったのだった。
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