17 / 24
第17話
*****
「おい九鬼!そろそろ寝るぞ!」
「え~~~!?もうちょっと!今いい所なんだって~!」
「お前なぁ...明日は朝から外回りだろう?早く寝ろ。上司命令だ。」
「ちぇーーー。陣ちゃんの意地悪ー。」
冬物のコートを出さないと冷える日が増えた11月の夜。
二組の敷布団を寝室に並べた後、テレビに夢中な九鬼をそこから引き剥がしてそれぞれの布団に横になると、すぐに九鬼は寝息を立てた。
ーーあの提案からちょうど1ヶ月。
初めは周りにバレないかと気にした俺だったが、九鬼は一度自宅へ戻り時間を潰し、夜遅く...会社周辺に人通りが少なくなってから、食事も風呂も済ませ『眠るだけ』の状態でこっそりとやって来た。
提案した当初は毎日でもやって来るのかと思っていたが、九鬼がこの家に来るのは週末を除く平日に1日置き、週2~3回のペース。
正直毎晩のことになるかと思っていた俺からしたら拍子抜けするものだった。
『添い寝ボランティア』なんてあの時は考えていたのに、九鬼は並んだ布団の境目から互いに出ることは無く、そして朝早くに起きて自宅に戻って出勤する...。共に食事をすることもない、『たった数時間』眠りにだけ来るだけ。
唯一変わったことは、九鬼が俺を『陣ちゃん』と呼ぶようになったことだ。
仕事とプライベートの時間をきっちり区別したい俺が自宅でも『主任』と呼ばれることを嫌がると、九鬼はそう呼び方を変えた。
...35のオジサンにちゃん付けなんて、と思ったが、まぁそこは広い心で許すことにした。
そして約束通り、九鬼は態度を改め真面目に仕事に取り組んでいるようだった。
勿論噂がすぐに消えた訳ではないが、前より騒がれることは減り、上には本人が辞めたくないと言っていることを伝え、『改善の余地がある』と報告してその場を収めた。
今の九鬼は生き生きと仕事に励んでいるし、何の問題もない...のだが...
ともだちにシェアしよう!