「陣ちゃん！話って！？」 「...おい」 「あ...っと、山元主任...」 「...気を付けろよ。他に人がいたらどうするんだ。」 数分前、少しばかり悩んだ俺は今のうちにあるものを渡しておこうと、九鬼をここへ呼び出すメッセージを送った。 他に人が来たら困るから、【至急】と急かしてみればその言葉の通り息を切らして現れた九鬼は、まるで忠犬のよう。 「あー、走ったからご飯出てきそう...」 「食後の運動だと思え。」 新しい煙草を取り出しそれを咥えると、九鬼は『ちょうだい』と言うかのように手を伸ばす。 『自分で取れ』と箱ごと渡すと、同じように咥えてその先を俺に向けた。 「ん、」 「......ったく...」 九鬼の煙草に火を点しそれから自分の煙草に火を点ければ、さっきよりも濃く香りが広がる。 「で？話って？？」 「ああ...。今夜、友人と呑みに行くことになったんだ。帰りが遅くなるから...だから...。」 そう言った瞬間、あからさまにシュンとした表情を見せた九鬼。 ブンブン振った尻尾が、急に垂れるような、そんな変わり様に『やっぱり犬みたいだ』と笑いが込み上げてくる。 「...一人で眠れるか？」 「そ...うなんだ。...ん...大丈夫...。」 明らかに低くなった声色。 ああ、きっとコイツは大丈夫なんかじゃないな、と確信した俺はポケットから取り出したモノを九鬼に渡した。 「...これ...？」 「家の鍵だ。今夜は帰りが遅くなるから、これ使って先に中に入ってろ。」 「え...で、でも」 「帰ったら風呂だけ入る。いつもより遅くなるから布団の用意は任せたぞ。」 装飾品の一つもついていない自宅の鍵。 普段財布に入れているから、何も付けない方が都合がいいと思いそのままの状態でずっと使ってきた丸裸のそれを、九鬼はジーッと見つめている。 「...ありがと...ありがとう、陣ちゃん！ちゃんと布団敷いとくね！！」 「ああ。朝早いんだから、先に横になってろ。遅くなるがちゃんと横で俺も眠る。」 「分かった！あ、ちょっとだけテレビ見てていい？」 「ほどほどにしろよ。」 「やった！へへ...」 渡した鍵を嬉しそうにギュッと握りしめた九鬼。 スペアじゃないからな、絶対落とすなよ、と念を押した所で他部署の人間が扉を開く。 「じゃあ主任、またあとで！」 「ああ。またな。」 微笑みながらそう言った九鬼は先に火を消し外に出た。 ーーーよし。これで問題解決だな...。 遅れて自分も外に出ると、なんだか少しスッキリしたような気がした。