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第21話
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会社の近く、徒歩で移動できる距離の路地裏にひっそりと佇む店の扉をゆっくり開ける。
そこは昼間は若い女性に人気カフェで、夜は常連か紹介が無ければ入れない一見さんお断りのバー。
「あ、いらっしゃい、陣さん」
「こんばんは、沙織さん。」
「奥に二人ともいるわよ、飲み物はいつもの?」
「ああ。」
そこは昔、一度『お試し』ではあるものの交際関係にあった数少ない女性の友人が開いた店だった。
元々料理が好きだった沙織さんがこうして店を持ったのは一年前、勢いと言っても良い程急に『カフェを開きたい』と相談されたのは三年程前のことだっただろうか。
女性客の好みそうなお洒落でヘルシーなランチはたちまち噂となり、昼間は特に忙しいらしい。
「陣!」
「待たせたな」
「大丈夫大丈夫。俺も暁斗もさっき来たとこ。」
「お疲れ様、陣。」
二人は一番奥の木製のテーブル席に腰掛け、その手元にはまだ口を付けていない様子のアルコールの入ったグラスが二つ。
上着を脱いでいると沙織さんが『はい、いつもの』と俺の分のアルコールを運んできた。
京極 暁斗 は弥生の義兄弟で、一度は色々あってライバル関係にあった男。
弥生とは正反対に落ち着いていて、今はインテリア関係の仕事をしている。
自分の親友というのが、弥生と暁斗、この二人のことなのだ。
沙織さんが『昼間は出せないジャンキーなメニューも作りたい』と漏らした時に『ならば夜はバーにしてみたらどうか』と提案したのは暁斗。
その後夜は知り合いがたまに来店するくらいのバーとなり、丁度その頃かつての行き付けのバーが閉店したこともあってか俺たちの集合は沙織さんの店に変わった。
...馴染みの顔が揃うこの空間はストレス発散の場なのだ。
「はい、じゃあ今日もお疲れ様!」
「乾杯、」
アルコールの入ったグラスを軽く合わせ、俺たちの『近状報告会』が始まった。
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