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第4話

下半身からはぐちょっぐちょっという音がしており、音で耳まで犯されている気分だ。 俺もそろそろ限界が近くなってきたのか、酸欠からなのか目の前にチカチカと火花が散る。 「んんぅぅぅぅぅぅ!!」 背中にビリビリとした電流にも似た気持ちよさが駆けあがってくると命くんの手に盛大に白濁したものを吐き出す。 「えへへ♪いっぱい出たね」 苦しさから解放されぜぇぜぇと息をしていると、命くんは手についた自分と俺のものが混ざった精液を小さな舌でぺろぺろと舐め取っている。 俺はそれをぼんやり眺めていたが、昼間の事もあってどっと疲れが押し寄せてきて、そのまま意識を手放した。 「さとるく~ん?朝だよ~」 「う~ん?」 身体がゆさゆさと揺すられ、幼い声が聞こえる。 外からピチチと雀の声が聞こえた。 「もう8時だよ~?」 「うそ!もうそんな時間?!」 時間を聞いた瞬間、学校に遅刻するとか朝食を作っていないどうしよう等と様々な事が頭を駆け巡る。 単純に“ヤバイ”と思って飛び起きる。 俺が朝食を作らないと自分の弁当も食事も出てこない。 母さんは元々料理があまり上手くないし、義父も弟も料理ができない。 唯一料理ができる俺が料理をしないと皆困ってしまうのだ。 それなのに、8時まで寝ていたら母さんに何を言われるか分からない。 「ごはんたべよ~」 「えっ?うん?」 命くんが寝室からトコトコと出ていく後ろ姿を見ながら俺は状況が掴めずまだぼんやりとした頭で、ただ命くんを見送った。 ふと昨日の事を思い出し、急いで自分の身体を確認するが寝た時と一切変わりはなく夢だったのだろうかと思ったが夢にしたら随分酷い夢を見たものだ。 「さとるく~ん」 命くんの心底明るい声を聞くと、自分が見た夢ながら頭を抱えたくなってくる。 「どうしたの?お腹いたい?」 なかなか寝室から出ていかない俺を心配したのか命くんが寝室に戻ってくる。 命くんも特に変わった様子などなく、俺を不思議そうに見ている。 今日はセーラーカラーのついた上着に、襟と同じ色の半ズボンに短いソックスといういでたちだった。 命くんのその無邪気な顔を見ると何故だか罪悪感でいっぱいになる。 「大丈夫…かな?」 「さとるくんの着替えも用意してあるんだよ~?はやくはやく!」 俺はその罪悪感を隠すようににっこりと命くんに微笑みかけるとベットから起き上がった。 楽しそうに部屋を出ていく命くんがニヤリと笑った事にも気が付かず、俺は小さい子は朝から元気だな等と思っていた。 + この質屋に来てから随分経ったある日。 ふらっと巽が部屋にやって来た。 「ここでの生活はどう?」 「はい…特に問題はありません」 俺が本を読んでいる横で命くんは何か絵を描いていた。 ここでの生活は本当に穏やかで、たまにこの前の様な夢を見て罪悪感に苛まれるがそれ以外は特に困った事などなかった。 「命…仕事だ」 「分かった」 久々に部屋にやって来た巽が一言そう言うと、命くんはいつものにこやかな表情から一変して何も言わず風呂場へと消えていった。 「仕事ですか?なんの…」 命くんの様子が気になり、近くのソファーに腰掛けた巽に声をかけてみる。 巽は今日は黒地に裾には桜の花弁が散っている柄の着物を着ていた。 肩からは白地に草花の刺繍の入った羽織がかかっている。 「あぁ…命はここの“商品”と言っただろ?」 巽は肩からかかっている羽織の袖から何か袋を取り出すとそれを開きだした。 袋からは煙管一式が出てきて馴れた様子で火をつけている。 簡易の喫煙セットだったようだ。 「命はここに預けられているのではなく、今は商品としてここに居るんだ。だからお客様からご要望があればお客様のお宅へ行くし、その為にはお客様に選んで貰う必要があるだろ?」 巽が息を吹き出すと、何でもないことの様に今日ここに来た理由を話し出す。 「詳しい事は命から聞けばいいが、あいつは何処に行ってもすぐにここに返ってくる。多分またすぐにここに返されてくるだろうな」 「それって…」 「言っただろ?ここは何でも扱ってるって…」 煙管からたちのぼる煙が今日は多い気がする。 煙の向こう側に見える巽はどこか不思議な雰囲気を醸し出しており少し恐ろしくなった。 俺は底知れぬ恐怖に後退る。 「ここには何でも持ち込まれる。宝石、骨董品、古道具にブランド品。そして、珍しい動植物」 「・・・」 俺は固唾を飲んで巽の言葉に聞き入った。 「そして…“人間”もうちの商品だ」 分かっていたことだが、改めて言葉にされると自分も金と引き換えにここに来た事を思い出して胸が苦しくなる。 あの日母さんが橋羽から受け取った札束を数えていたことを思い出して自分の腕をぎゅぅっと握りしめた。 「君はまだ預かっているだけだから、お客様の手に渡ることはないから安心して大丈夫だよ」 安心していいのか分からないが、俺はまだ本当には母さんに売られて無いようだ。 良かったと思う一方で、なんで俺に一言も言ってくれなかったのだろうという思いも湧いて来てモヤモヤとした気持ちが胸に渦巻いて苦しい。 「じゅんび…終った」 「なら、いつものやつしようか」 「うん」 俺が固まって居ると命くんが風呂場から帰ってきた。 着替えも済ませてきたのか白のワンピースの様な簡素な服を身にまとっている。 命くんが手を差し出すと、巽は命くんの手に手錠をはめていく。 「ちょっと!」 「これは納品に必要だから君は黙って見てて」 目の前で繰り広げられていく事に驚いて、止めに入ろうと一歩踏み出した所で巽にやんわりと言葉で制止されてしまえば俺はそれをただ見守ることしかできなかった。 命くんの手には俺がここに連れてこられた時につけられた金属製の手錠ではなく、革のバンドタイプの手枷が取り付けられていく。 首には同じ素材の首輪が巻かれ、それが細いチェーンで繋がっている。 まるで奴隷そのものの様な雰囲気に俺はたじろぐ。 しかし、当の命くんは馴れた様子でそれを甘受していた。 「いつもの場所でいいの?」 命くんが何か訪ねると巽はゆっくり頷いた。 「君も見ておくかい?深谷理くん?」 「見るって…何を?」 「それこそ見てのお楽しみさ…。私たちについてくるといい」 巽がソファーから立ち上がると踵を返して部屋の外へと出ていく。 命くんは特に言われるでもなく巽の後に続いて部屋を出ていく。 俺はそれをぼんやりと眺めて居たが、二人が部屋を出ていってしばらくして俺は慌てて後を追った。 俺は小さいホールの様な部屋に来た。 その部屋には廊下にあったよりも多くの美術品や骨董品等が並んでいて雑多としている。 そして一番奥には大きなショーケースの様なモノが並んでいた。 その中には仕切りがついていて、ここに来たときに見た大きな蛇や動物たちが入れられている。 そのひとつに命くんが入っていくと、中で大人しく座った。 命くんの他にはもう1人隣のショーケースに子供が居て、その子は状況が分からないのか周りをキョロキョロと不安そうに見回している。 「君は橋羽と上で見ているといいよ」 「ではこちらに」 俺はホールから出ると2階へ通された。 重そうな扉を開けると電気を調節するパネルと大きな機械が置いてある。 パネルの前には窓がついており、そこからホールの様子が見られるようになっていた。 「ここは調光室ですので、パネルには触らないでください」 「はい…」 それだけ言うと橋羽はこの調光室から出ていってしまった。 橋羽に似た黒服の人間が会場にちらほら増えだしたと感じる頃。 ざわざわと人がホールに近付いて来る気配がする。

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