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番外編 何を見せられているのか

早朝特有の澄んだ空気を肺一杯に吸い込む。 足元では愛犬であるコーギーのミコさんがちょこちょこと短い足を動かしている。 俺はミコさんの散歩のついでに近所で開かれている朝市に来ていた。 朝早い時間なのにおば様達で賑わっている朝市で俺は野菜等を買っていく。 最近やっと以前の様に人混みが平気になってきたが、長時間は難しいのでまだまだ練習中だ。 「さぁミコさん帰ろうか」 両手に大量に野菜の入ったビニール袋を下げてミコさんに声をかけると、ワンッと返事が返ってくる。 走る度にガサガサと鳴る袋が気になるのか、ミコさんが時折振り返るので来たときよりゆっくりと帰路についた。 「はい。ミコさん足を拭いたからお水飲んでね」 家について一番最初にすることは、ミコさんの足を拭いてあげてから水を飲ませることだ。 ボウルに水道から直接水を汲んで目の前に差し出すと、バシャバシャと音を立てながら水を飲んでくれる。 飲み終わるとポタポタと顎から水を滴らせているので、それをタオルで拭ってあげてから一緒に家に入った。 リビングの端には毛足の長いラグが敷かれており、そこでは一旦起きて来たのにまた寝てしまっている義母の命くんが寝ている。 一方ソファーでは、勝手にお義父さんの珈琲マシンから珈琲を汲んで飲んでいる誉先生が座っていた。 他の住人は起きてきていないのか、リビングには紙を捲るパラパラという音以外に音がしなかった。 「あ、おはようございます」 「おはよう」 誉先生に声をかけると、紙の束から顔をあげてくれた。 俺の足元に居たミコさんは誉先生に見向きもせず命くんの所に行ってふんふんと匂いを嗅いでいる。 ミコさんは、そのまま命くんを守るように横に寝そべると動かなくなった。 「今日は沢山野菜が買えたので、今から料理しますね」 「大丈夫だよ。まだ時間があるからゆっくりで」 誉さんが再び紙に目を落としたのを横目に、俺はさっき買ったものを取り出して朝食の準備をはじめる。 料理をしている間に、翔さんや白い人もユウさんを引きずりながらリビングにやってきた。 白い人は朝は珈琲しか飲まないので、誉さんが声をかけているのを見ていたので放っておくことにした。 「お待たせしました~」 「あさごはん!」 できた料理を運んで行くと、ユウさんが俺にまとわりついてくる。 ミコさんより躾ができてないので、凄く邪魔だ。 飼い主の白い人は何をしてるんだと探すと、誉さんに何か言われている。 とりあえず、一刻も早くこの犬をどうにかしてくれと思う。 「はい。ユウさん」 ユウさんとミコさんの食事を床に置く。 はじめは凄く抵抗感があったのだが、机に置くより綺麗に食べるし白い人も何も言わない。 むしろ白い人が率先してユウさんの皿を床に置くので軽蔑したが、ユウさん本人から床の方が食べやすいと言われてしまえば仕方がない。 今は俺も慣れたもので、床に皿を置いた後は命くんに凄く嫌な顔をされつつ命くんを椅子に座らせている翔さんや、誉さんの前に料理を出していく。 「ありがとう」 「理。俺も手伝うよ」 「いえ。今からお弁当詰めるので翔さんは食べててください」 誉さんは俺に礼を言うと、白い人に絡みながら食事をしはじめた。 翔さんは俺の事を気遣ってくれてとても嬉しいのだが、翔さんとユウさんと命くんのお弁当を詰めなければならないので泣く泣く申し出をお断りした。 本当に翔さんは気遣いができて可愛くて最高のパートナーだ。 お義父さんや他の人にも翔さんはフツメンだとか、モブ顔なんて言われているし本人ですらそう言っているくらいだが何故翔さんの素晴らしさが分からないのか理解に苦しむ。 あんな素敵で、可愛くて、格好良くて、気遣いができて、謙虚で、清楚で、清楚ぶってるのにベッドではエッチにおねだりしちゃったりして。 俺が妄想に耽っている間に弁当も作り終わっていた。 「あ、そろそろ行かなきゃ。ほらカイも準備して」 「本当だ!命くん…着替えなきゃ」 「カイー」 「うるさい。触るな」 「翔ちゃんだっこしないで!」 誉さんの一言にリビングが慌ただしくなる。 食器は翔さんが手早く片付けてくれるので俺は慌ただしくしている皆をよそに、一足先に玄関に向かう。 玄関にある棚の上にお弁当を乗せると、シューズクローゼットから誉さんが出てくる。 誉さんは駅前に大きな病院を経営している医院長先生なのでお弁当は要らない。 「さとっピ。これ、みつくんに渡しておいて」 「そのあだ名で呼ぶのやめてください」 誉さんにUSBのフラッシュメモリを渡される。 誉さんは俺やお義父さんの事を古くさいあだなで呼んでくる。 それをやめて欲しいと何度も言っているのだが、一向に直らないしお義父さんの呼び方に関してはただの嫌がらせだろう。 誉さんに続いて次々と皆が出掛けていく。 翔さんはバイトだし、命くんは今日は観劇だと言っていた。 ユウさんはリハビリ、白い人は知らないが多分誉さんの病院で誉さんとイチャイチャしにいくのだろう。 「はぁ。これどうしようかな」 皆を送り出したところで、俺は少し遅い朝食を食べ始めた。 お義父さんは仕事を夜していてお昼頃まで起きてこない。 だから、この預かったUSBメモリは俺が処理しなくてはいけないのだ。 正確に言うと誉さんに預かった物を渡すと、お義父さんは俺が見たこと無いくらい嫌な顔をする。 普段は無表情なのに、その時ばかりは分かりやすく嫌な顔をするので誉さんも分かっててやっている気がしてならない。 「今回は…何が入ってるのかな」 俺は、食べかけのパンの乗った皿を端に避けつつノートパソコンを引き寄せる。 先程玄関から戻ってきてから立ち上げたものだ。 ポートにフラッシュメモリを差し込む。 画面にポップアップが立ち上がるので、俺はそれを押すとフォルダが開く。 フォルダの中には案の定、画像データが入っているのでこれから編集しなくてはならない。 お義父さんには適当にしとけばいいと言われているので、編集経験の浅い俺でも気にせず作業ができる。 色々ソフトを立ち上げて、いざ編集をはじめた。 『みつくん。ヤッホー。あ、編集してるのはさとッピかな?』 動画を再生させると、誉さんがカメラに向かって手を振っている。 これは毎回カットするが、絶対この前フリから動画は始まるので俺も見慣れてしまった。 何か動画を参考にしているのか、ただの嫌がらせなのかは分からない。 『今日は、さとッピの彼氏の翔っちが寝たら中々起きないと聞いて、睡眠姦の動画だよ』 「いやいや…犯罪じゃん」 ついつい動画にツッコミを入れてしまったが、一応誉さんのレクチャー系の動画は人気がある。 医者と言うこともあって人体の事は良く理解しているからか、アクセス数もかなりあるのだ。 『今回は、漫画とかで良く目にする睡眠姦についてのレクチャーです』 やっと動画を撮るモードになったのか、誉さんがにっこりと微笑んだ。 俺は動画を一時停止して少し動画を戻して冒頭からそこまでをカットする。 再び再生ボタンを押して動画をスタートさせた。 『こちらで寝ているのは、最近新しくモデルになった“ラビット”くん。今は睡眠導入剤で寝てます。因みに、今回もきちんと同意は得てます』 ベッドの上に横たわる白い人は、睡眠導入剤を毎晩飲んでるらしく動画では便宜上同意の有無は公表したが絶対に同意は取っていないだろう。 因みに俺もやっているお義父さんのサイトでのモデル業での白い人の名前が“ラビット”なのは、誉さんが勝手に呼んでいるのをお義父さんが採用してその名前になったらしい。 実に安直と言えば安直だ。 『まずは、服を脱がせたラビットくんのアナルはこんな感じです。開発が進んですっかり縦に割れてます』 誉さんはベッドに寝ている白い人を後ろから抱き上げると、膝に手を差し込んで大きくM字に開脚させる。 俺は再び動画を止めて大きく開いた股間にモザイクをかけていく。 『開発が進んでいない、もしくは今から開発をはじめる方はゆっくり拡張からはじめてください。ラビットくんは開発が終わってるので、次のステップに進みます』 誉さんがローションのボトルを取り出しているごそごそと言う音とシーンをカットしていく。 本当に地道な作業過ぎる。 『アナル用のローションをたっぷり垂らして、指を挿入します。寝ている時は筋肉が緩和しているのでゆっくり指を回したり、開発が終わってる子は相手が好きなポイントを撫でてあげてください』 『うっ…』 『こんな感じで反応してくれる事もあります』 ローションが立てるぐちゅぐちゅという音を少し大きくしながら、喋ってる部分が煩くない様に調整していく。 白い人の声は本当に小さいので何度もタイミングを見計らいながら大きく聞こえるように調整していった。 『膣はこんな感じで収縮を繰り返しているので、玩具で少し擦っていこうと思います。これはショップで販売している商品です』 俺は動画を止めると立ち上がってカタログを持ってくる。 ついでに珈琲も入れてから席に戻る。 止めた画面を見つつ、カタログと商品を照らし合わせていく。 該当の商品の番号が分かったところでテロップを小さく入れておく。 『では、ゆっくり挿入していきます』 『ぁ…うぁ』 『玩具は無理に押し込もうとせず、入るところまで挿入して、慣れている子は抜き差ししてください』 誉さんのレクチャーに合わせて、周りに筋が浮き出しているデザインのディルドが白い人に沈んでいく。 根本まで沈めたディルドを小刻みに左右に揺らしたり円を描くように揺すった後、半分ほどまで引き抜いて掌でそれを押し戻した。 相変わらず画面の中ではぐちゅぐちゅともなんとも言いがたい音が鳴り響いている。 俺は残りのパンをゆっくり齧りながら動画の続きを見ていた。

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