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番外編 キスの日

「やーっと寝てくれた……今日の司は手強かったなー」  子供たちを全員寝かしつけ、芳が寝室へ入ると、ベッドに腰掛けて本を読んでいた英司が「お疲れ様」と顔を上げた。 「あれ、英ちゃんまだ起きてたの? 明日早いんじゃなかった?」 「芳さんはいつも僕を労ってくれるんだから、僕にも労わせて欲しいんだけど」 「そんなこと言うと、朝までコースになるかもよ?」  閉じた本を枕元へ置いた英司の膝へ乗り上げるようにして、顔を寄せる。そのまま眼鏡のブリッジを摘んで素顔を暴く芳に、英司は軽く口端を持ち上げた。 「朝まで持ち堪えられるなら、どうぞ?」  英司の手が、後頭部で纏めた芳の髪を解く。この瞬間が、芳はとても好きだった。  英司と出会う前の芳にとって、自分の身体は金を稼ぐ為の道具でしかなかった。  キスもセックスも、全ては日々の生活の為。髪を伸ばしていたのも、不本意な番の証を隠す為だけだった。  けれど、英司はいつも芳に『意味』を与えてくれる。  英司が綺麗だと言ってくれたから、彼の為に伸ばしている髪。  自分より、芳の快楽を優先して引き摺り出す、少しだけ荒っぽい行為。 「俺、英ちゃんとキスしてると、生きてるなって思うんだ」  口付けの合間に言うと、「当たり前だよ」と笑った英司が、芳の唇へ甘く歯を立てた。 「その身体に、ちゃんと知らしめてるんだから」  芳の全身に、いつも生きている証を刻みつけてくれる英司。  快楽だけでなく、痛みでさえも、英司に与えられるものは全て受け止めたい。  英司の全てを受け入れて、そして芳も証明したい。  芳は確かに英司の隣で生きていることを。  この命だけは、決して失くさせないことを。 「英ちゃん。俺が生きてるってこと、泣くまで痛感させて」  重ね合わせた唇から、今日も芳は英司と命の温もりを与え合う。

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