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★とある酒場の看板娘(本当は男)と、とある男の後日談★
* * *
「はい、それではこちらのスライム討伐の依頼を受理しました、ました。それと、お客様は初めてのクエストということでオレゴナの森への地図を渡しておきます、ます。これから他のクエストで訪れるかもしれませんのでオレゴナの森周辺の場所の名前も記しておいてます、ます。それでは、どうか、お気をつけて~。」
ギルド内で、ダークエルフの受付娘に見送られたのが、かれこれ一時間前くらい。
昨日の昼間に初めてギルドを訪れたことと、日々を過ごしていくためにお金が足りなくなさそうだということは、結局誰にも伝えていない。
昨日の夕方から夜にかけて、活気を失った酒場に来てくれた優しいノルマンにも――そして、もちろん彼の息子であるウィリアムにも伝えられずにいた。
(せっかく船乗りという仕事が見つかって生き生きしているウィリアムと……そんな息子を暖かい目で見守るノルマンさんに……迷惑はかけたくない……)
それが、今の自分の本音だ____。
二人のことが、幼い頃から大好きなティーナは彼らの悲しむ顔や不安げな顔を見たくなどない。
だからこそ、農作業をしていて酒場にこないノルマンと最近始めたばかりの仕事に励むウィリアムの目を盗んで――夕方から夜にかけてではなく昼間である今こそ、このオレゴナの森を訪れることにしたのだ。
オレゴナの森に着く前に、もう一度クエストについての確認をする。
クエスト名《真上にご用心!!》
【オレゴナの森に棲息するスライムを5体討伐せよ。スライムが絶命時に落とすコアは研究に必要不可欠。討伐と同時にコアを傷つけることなく採取せよ――報酬は500ミラだ】
つまり、5体のスライムを倒すのと同時にコアとやらを採取してギルドに戻ったあとに渡せば500ミラが手に入るということ。
500ミラを手に出来れば、少なくともこの先1ヶ月は安心して暮らしていける。
それがなくなったら、またギルドで依頼を受けて稼げばいい。
(何としてでも、この依頼をうまく終わらせなくちゃ……みんなが、幸せに暮らしていけるために____)
そう決意しながら、ティーナは先程よりも足早にオレゴナの森がある方角へ進んで行くのだった。
* * *
「こ、ここが……オレゴナの森____森っていうからもっと暖かい所だと思ってたけれど……随分と寒いな」
思わず、身震いをしながら呟いてしまう。
今までのほとんどの時間を【酒場】という世界でしか過ごしてきてなかったため、ワクワクするのと不安とで複雑な気持ちを抱くティーナ。
(もっと、厚着してくるべきだった……まさか、こんなにも霜に覆い尽くされている森だなんて……僕が想像したのと全く違うじゃないか……)
ティーナが想像していた【森】は、もっと陽の当たる暖かい場所で緑色の木々が生い茂っていて生物(魔物も含む)が多々棲息している――そういった、賑やかさと活気さに満ちた場所だ。
でも、実際に今――目にしている【森】は想像していたのと全く違う。
地は真っ白な雪に覆われ、踏む度にザクザクと音がする。
それでも、完全に凍っていないのが唯一の救いだ。
正直、滑らないように歩いて行くので精一杯だ。
【オレゴナの森】というだけあって、確かに周りは木々で覆われてはいるものの想像していたのとは裏腹に日が散々と降注ぎ活気ある緑色の木々とはかけ離れている。
幹はグッタリとしおれ、本来であれば青々と茂る葉っぱは霜に覆われていて僅かながらに幻想的とはいえ生き生きとした様は感じられない。
ただ、不思議なことに【実】はついており、毒々しい赤色がティーナの目を刺激する。ただし、その【実】の周りにもびっしりと霜がついていることに気付いた。
問題は、この雪と霜に覆われた【オレゴナの森】どこかに倒すべきスライムがいるということだ。
ギルドで支給された武器である杖と護身用の盾を慣れない動作で構えつつ、おそるおそる前進していくティーナ。
「……っ____!?」
すると、ふいに何か固いものが足に引っかかり前方へと転んでしまうのだった。
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