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★とある酒場の看板娘(本当は男)と、とある男の後日談★

粘液まじりで、常に明確な形を保っている訳ではないスライムが姿を変えること自体は珍しくない。 現に、今は天に召されたアンテッドだったかつての常連客たちの中の誰かからも、彼らが生きていた頃によく体験談は聞いていた。 《スライムが他の魔物の姿へ変わった》____。 ネチャネチャした粘液を纏いながら、うねうねとした独特な動きで此方へ近づいてきたスライムが突如として本来であればこの付近のエリアにいる筈のない《ゴブリン》へと姿を変化させた。 とはいえ、それ自体は別におかしくはないのだ。 本来いるべき筈のない魔物が、獲物となる弱い魔物や冒険者達の持つ食料を求めて他のエリアまでさ迷うことなんて、よくあることではなちけれども決して珍しくはないと――あの可愛いギルドの看板娘も言っていたじゃないか。 けれど、今のこの状況は明らかにおかしいものだと今まで生きてきて酒場が世界の中心であり、なおかつ冒険に疎いティーナでさえ直感的に不安を感じたのはギルドから支給されていた杖による攻撃も他の武器による攻撃も全く効いているとは思えなかったからだ。 それに、ゴブリンもスライムもいずれにしても基本的には温厚な性質であり、また臆病なため単体で人間に敵意を向けることはまずないともギルドの看板娘がアドバイスしてくれていたことを思い出す。 【ΦΥΧΠΡΚ *ΧЩдδγ 】 本来であるならば、決して人語を話すことのないスライム(ゴブリン)が醜く歪め笑みを浮かべた口元から涎をダラダラと垂らしながら、もはや役に立たなくなった武器を前に構えて身を守ろうとした。 ____が、 「ちょ……っ____何なの!?こんなスライムの特性……アンテッドの皆からも……ギルドの子からも一言も聞いてなんかない……っ……」 思わず、焦りが言葉として出てしまう。 スライム(ゴブリン)からダラダラとこぼれてくる唾液には、何か独特が特質があるらしくティーナが身に付けている支給用の防具をどんどんと溶かしていく。 妙なのは、溶けていくのは身に付けている防具のみでティーナの肌には何ら異常はないことだ。 どんどんと、生まれたての赤ん坊のように裸となっていくティーナ。そして、それと同時進行で体の力が抜けていき、更には視界までもが霞んでいってしまう。 おそらく、このままの状態だと――やがて麻痺に陥り、最悪の場合ムシャムシャとゴブリンに擬態したスライムにその身を喰われてしまうのだろう。 頭がボーッとし、何とか自由のきく内に体を引きずっててもこの場から逃げ出すという正常な判断さえも出来なくなった時のこと____。 ゴツッ____!! という、何か固い物がぶつかる音がすぐ近くから聞こえてきたのを最後にティーナの意識はそこで途絶えてしまうのだった。

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