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★とある酒場の看板娘(本当は男)と、ある男の後日談★
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「どうして……どうして、サム……あなたが、ここにいるの?今頃は、ウィリアムと一緒に……船の上にいるはずじゃ……っ____」
何だか、頭がボーッとしていて普段のようにしっかりと話せない。
「い、いったい……あなたは、何者なの?何のために……こんなことを……するの!?」
と、ティーナは声を振るわせながらも何とか問いかけた。
しかしながら、声が震えてしまっているのは今正に自分の目の前にいて、更に欲望むき出しの血走った目付きで見つめてくるサムに対して本能的な恐怖と不安を抱いてしまっているからだけではない。
衣服を全て剥ぎ取られ、尚且つ――まるで奴隷さながら両手を黒い鎖で縛られてしまっている状況のせいで途徹もない寒さに襲われてしまっているせいでもあるからだ。
「____何のために……か。そうだね、世間知らずな君の目には、あの情けない哀れなウィリアムにしか映ってないんだろうさ。けれどね、これを見れば……嫌でも、君は――ぼくと共に永遠にここで過ごすことを望むのは分かってる。何ていったって、ここには君が探しているものもあるからね」
「わたしが、探している……も……の____?」
目の前にいるサムが、何のことを言っているのかティーナには全く分からない。
けれども、その言葉を聞いた途端に、何ともいえず胸がざわざわする感覚のを抱いてしまったのは事実だ。
寒気は益々酷くなっていき、更には体にも怠さを感じる。まるで、全身に重りを付けられてしまっているかのように上手いこと動かせない。
しかも、ついさっきまでは、それほど気にしていなかったが目まで徐々に霞みが酷くなってきている。
「そうさ。でも、まあ――正確にいえば彼らの他にも、ここにはあるんだれど、そんなことは君とぼくとの間で永遠の愛を誓う暮らしを過ごすということにとって全然重要なことじゃない。他にも欲しいものがあれば――いや……あるんだよね?」
口元はにこやかに笑っているにも関わらず、目は笑っていない。その事に気付いたのは、目の前で自分を見下ろしているサムが、わざとだといわんばかりに手に持っている松明の炎である場所を執拗に照らしているからだ。
サムの顔が、闇に紛れては――ふいに、明るく照らされる。
とても、不気味だ――とティーナが感じたのは何もサムの様子を目の当たりにしたからだけじゃない。
「分かるよ。君の悲しみも、ずっと見てきたから。怠け者で、ほとんどの村人から嫌われてるウィリアムなんかよりも、ずっと君を見てきたから分かるんだよ。君はウィリアムの亡き娘との再会をずっと望んでる。ぼくと共に永遠にここで過ごすことを約束するなら、それを叶えてあげる。場合によってはウィリアムもここに呼んでもいいよ?ただし――君がぼくだけを見て、ぼくたけに尽くすって約束するならね」
狂ったサムが、何かを言っている。
けれども、ぼんやりとそのことを理解しつつつもティーナは上の空だった。
目の前で自分に対して空虚な愛を吐き出してくるサムよ口元なんかよりも 、遥かに気にすべきものがティーナの目に映ったからだ。
「ああ、ほら……みんなも、ぼくらの愛を祝福している。じきに、また……動けるようになるだろうさ。何ていったって、ぼくはこのダンジョンの主なんだから。ぼくの意思で、全てが決まる。そうさ、ぼくはこの世界の王なんだ……ティーナ、レインと再会したいのなら……こう、言えばいい。《新しい家族がほしい》ってね____」
狂ったサムは、松明の光に照らされた【幾つもに折り重なっている白骨の山】の上に腰をかけながら、半端ない驚愕に襲われたせいで両目をかっと見開くティーナの様をさっきとはうってかわって無表情で見下ろしながら鉄のような口振りで言い放つのだった。
【幾つもに折り重なった白骨の山】は、それのどれもが――小さい。
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