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★とある酒場の看板娘(本当は男)と、ある男の後日談★

暗闇が辺り一面を支配し、冷気が漂う洞窟内部に入っていくと、少ししてから再び無数の骨が折り重なっている《骨の山》が見えた。 それは、ティーナが先程目にした《小さな骨でできた山》ではなく、大小の骨が折り重なってできた山なのだけれども、いずれにせよ――かつて生きて日々を過ごしてきた《人間》の無惨な成れの果てでできたものという点は変わらない。 そして、先程からティーナへと必死で訴えかけてくる男性の声は間違いなく、この先から聞こえてくるという確信も持てた。 何故なら、ティーナが狭く冷たい洞窟内をほふく前進で移動していく度に男性の声が大きくなってきているからだ。 更にいうと、骨の山は決して一つだけじゃない。 この狭い通路のそこらじゅうに、ひしめくようにして大小の骨の山が点在しているのだ。 【ここだ、オレは……ここに____】 ティーナは、ふと動きを止めて目の前にある沢山ある内のひとつでしかない骨の山を真っ直ぐ見据えた。 すると、多数の骨が折り重なっているにも関わらず、あるひとつの骨だけが強い光を断続的に放ち続けているのを見つけた。 まるで、ティーナが見つけるのを、ずっと前から今か今かと待ち続けていたかのように、光の導くままにそっちの方へと近づいていく度に光の眩しさが徐々に増していくのだ。 更に、その朽ちかけて地にうつ伏せ状態となっている白骨の背中――正確にいうと心臓の辺りに何かが真っ直ぐに突き刺さっているのが近づいてゆく度にハッキリと見えてしまった。 そして、ティーナは息を呑んだ。 光を放つ骨の背中を貫くように真っ直ぐに突き刺さっているものはティーナにも見覚えがあったからだ。 パーティーに誘ってくれたリーダーである【シズミ】が、依頼を受けている最中、ずっと手にしていた剣だ。 しかも、今目の前に飛び込んでいる剣は錆び付いていてはいるものの、戸惑いを浮かべ目を背けようとしているティーナが抗えないような不思議かつ不気味な威圧感を発している。 その剣を見ている内に、ティーナの脳裏に――とても恐ろしく、おぞましい考えが浮かんでくる。 「エス……あなたは、エス____でも、何故……こんな場所にいるの?いいえ、もう言わなくても分かってる。あなたは……あなた達はわたしと同じようにこのダンジョンに誘われ……そして、心優しく賢いあなたは……ダンジョンの秘密に気付いてしまった」 【そうだ。そして、オレは……シズミとビルマに――信じていた仲間に心を貫かれた……っ____あの二人は歪んだ幸福を求め過ぎたのだ……冒険業を一度退いていたアズキは再び周囲の名声を得るために。そして、しがない村人の男と結婚したビルマは退屈な日々から逃れるべく……このダンジョンの餌食になった。そして、それはオレとて例外じゃない。こんな筈じゃなかった……こんな筈じゃ……】 今やアンデッドのような存在と化した【エス】は、ティーナに同じような後悔はさせたくないと語り、同時に今まで同行していたアズキ達パーティー(むろんエスも含む)は紛い物で、それらは全て《シェイプシフター》という魔物がかつての自分達を真似た存在ということを簡潔にだが語ってくれた。 それを聞いたティーナは、やはりサムの提案など受け入れるべきではないと改めて思い直し、その怒りからか何とか力を振り絞り、よろめきながらも【エス】の真正面に立つと覚えたての簡易な浄化魔法を唱える。 魔術師でもない酒場の看板娘でしかない自分が唱えたとて、一時的な気休めくらいにしかならないのは充分に理解していたけれど、それでもティーナは構わずに【エス】へ礼をした。 しかしながら、それを決して許そうとしない邪悪な影が背後から迫ってきている気配を感じてティーナは慌てて振り向くのだった。

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