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★ とある酒場の看板娘(本当は男)と、ある男の後日談 ★
「ウィリアム……ど、どうして!?あなたは、今頃、船の上じゃ____それに、その人達は誰なの?どうして、あなたも……それに知らない人までもが此処にいるの?」
「そ、それは…………」
と、久しぶりに面と向かったティーナの問いかけに対して戸惑い慌てふためきながら説明しようと口を開くウィリアム。
けれど、二人の再会は思いも寄らない形で中断されてしまう。
「悪いが、今は詳しい説明などしている暇はない。それと、これも何かの縁だ。お前達にも、この不届き者達を城まで連行する手伝いをしてもらう。そこの娘と男には罪なき子供や村人達を何十人も手にかけて、このダンジョンにて何百人もの魂を縛りつけて強制的に閉じ込めている罪____」
激しい怒りのこもった瞳で、ティーナとウィリアムの背後を見据える男。怒りの対象の前にして感情のまま怒鳴りつける訳ではなく、淡々と己の言いたいことを述べる様は貫禄があるといえるだろう。
そもそも、ティーナは今まで過ごしてきて初めて【狼の獣人】という種族を目にした。風に吹かれる度になびき、ダンジョンの隙間から差し込む月の光に照らされ輝く白銀の毛並みが貫禄さを更に際立てる。
その後、男はまたしても蛇のように鋭い視線を別の場所へと移す。
「そして、貴様――貴様はあろうことか国の者らを守るべき貴族という立場の身でありながら、何にでも姿を変化させられる魔力が極めて高いシェイプシフターという危険な魔物を使役し、船にいた何百人もの命を犠牲にするところだった____」
男は、サムを睨み付けながら先程よりも低い声色で問いかける。傍観者でしかないティーナでさえ、そして恐らくは隣にいて同じ傍観者の立場にいるウィリアムでさえも、男がサムに対して怒りだけでなく侮蔑の意味を込めつつ問いかけているのが理解できる。
サムは己に対して侮蔑と怒りをあらわにする【狼の獣人】の説得に尽力するのは正しい判断ではないと瞬時に悟ったのか、彼の隣で無表情のまま見つめてつつ立っている少年に目を向けた。
もちろん、酒場という狭い世界でばかり暮らしてきて世渡りする苦労を碌に知らずにぬくぬくと生きてきたティーナにも目を向ける。
「ねえ、ティーナ。そして、名前も知らないけど――そこの少年……。君らなら、分かってくれるだろう?こんな酷いことをしてきたのは、自分の意思でじゃないんだ。貴族という立場にいる叔父さんに命令されて、どうしても逆らえなかったんだ……そんなことをすれば、叔父さんから殴られたり、もっと酷いことをされるから……だから____」
『がちゃん……っ____!!』
ダンジョンの中に、サムの言葉を断ち切ってしまうかのような鋭い金属音が響き渡る。
「ここにきて、言い訳とは見苦しいですね。ある方が、ずっと前に教えてくれた。ダイイチキュウという異なった世界では、このように罪人を裁くのだと。ガルフがやらないなら、私がやるまで。このまま、城に連れていく……もちろん、お前達二人も逃がしはしない」
ティーナは、思わず息を呑んだ。
その名前すら知らない正体不明の少年が、サムに言い放った言葉はガルフが先程放った言葉よりも低い声色で、尚且つ重圧感を抱いてしまったせいだ。
それは、無表情を崩さない人形のような少年が無言で屈み込む。そして、地に落ちている石を何個か拾い上げてから、おもむろに懐から細長い白銀色の毛のようなものを振りかけた途端に丸い輪っか状の物体に変化し、それを素早くサムの両手に通した途端に瞬時に締め付けて拘束し自由を奪い取る。
「まったく、何をしている……貴様らにも協力してもらうと伝えた筈だ。さっさと、他の二人にも、あいつと同じことをしろ……っ____これ以上、無意味に犠牲者が増えてもいいというのか!?」
ガルフという【狼の獣人】の怒鳴り声によって、ハッと我にかえったティーナとウィリアムは動揺をしつつも命じられたように、無様にも背を向けて逃げようとしていたシズミとビルマを捕らえようと彼らを追い掛けていく。
やがて____、
「嘘で塗りかためられたお前の言葉など、信じはしない。犠牲となった船員たちにとっては、お前の【叔父によって虐たげられていた】という事情には何の関係もない筈であり、お前の罪は嘘をつくことによって人々の気を惹き周りを巻き込むこと。あの船のキャプテンには敬意を払わなければなりませんね……」
その少年の冷たい言葉を聞いてから、サムはがっくりと力尽き、地に両膝をつき――シズミとビルマは既に姿が消えかかりかけてしまっている【亡者】のエスの力によって、地に無理やり抑えつけられて捕らわれてしまうのだった。
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