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★ とある酒場の看板娘(本当は男)と、ある男の後日談 ★
* * *
それから数日経った、ある日の朝のこと。
古くから村に伝わる誓いをし、夫婦となったティーナとウィリアムは再びダンジョンへと訪れた。
とはいえ、ダンジョンを訪れたのは依頼をこなす為ではない。
話によると、貴族が与える罰の対象はティーナが訪れた【ギルド】にまで及び、働いてた者はみな白亜の城に連れて行かれ既にもう無人となっている建物のみがひっそりと置き去りにされているという状況らしいのだ。
けれど、このダンジョンの中には【ギルド】だった場所とは違って、位の高い誰かによって別の場所に連れて行かれる訳でもなく牢屋に閉じ込められるといったこともなく――未だにここに取り残されてしまっているものがある。
ティーナはすぐにでも再開したかった《酒場》を離れて、ウィリアムと共にスコップを手にしてここへと戻ってきた。
ティーナとウィリアムの目的は、ただひとつ____。
それは、哀れなことに【ダンジョン】に閉じ込められたままの状態の白骨と化した彼らを少しでも弔うべく別の場所へと移動して質素なものとはいえ今は亡き彼らのための墓を作ることだ。
そのための墓を作る場所は、数日前からウィリアムと話し合って既に決めていた。
「みんな、久しぶりね。あれから色んなことがあって、なかなか会いに来れなくて……ごめんなさい」
「…………」
ウィリアムは言葉に出して挨拶をすることはなかったが、その場所に着いた時に礼儀正しくお辞儀する。
ティーナが営む酒場から少し離れた森の中に、転々とする――かつて常連客だった戦士や冒険者達の墓場____。そして、これらもティーナ自身が作ったものだ。あの時は、エルフとダイイチキュウのニンゲンが混ざった珍しい冒険者達と共に熱心に作ったのをフッと思い出した。
絶え間なく木々が生い茂っているせいで日の光があまり届かない、この場所は晴れている昼間でも薄暗く、そして静寂に包まれている。
現に今も木々の葉が互いに擦れ合う音と、たまに囀ずる鳥の声しか聞こえてこない。
このまま、日が暮れてしまえば昼間でも薄暗いここは命をも脅かす危険な場所となってしまう。
そのため、なるべく昼間のうちに新たな墓を作りたいと考えているティーナとウィリアムは、互いに顔を見合せると、本格的に作業に取りかかるのだった。
*
後に、ウィリアムの父であるノルマンも加割ってくれて無事にティーナはダンジョンの中に閉じ込められていた哀れな魂を埋葬することが出来た。
全てが終わり、帰路へつく途中で久しぶりに見た海に目を奪われたティーナだったが、ふと隣を歩くウィリアムに裾をつん、と引っ張られて目線を移す。
後方を歩いていたノルマンは、そんな二人を気遣って、さっと素早く彼らを追い越すと足早に村の方へと向かって進んでいく。
そして、二日前に城から酒場へと帰った時のように二人きりとなった。
「ティーナ____俺達には、まだやるべきことが残っているのは分かるか?」
真面目な顔つきで、こちらへと振り向いたウィリアムの態度が意外だったティーナはキョトンとしたが、やがて一つの考えが思い当たる。
それは、今までティーナを悩ませ続けていたものだ。
「ええ、ウィリアム……あなたの言う通り。私には――いいえ、私達には……まだ、やるべきことが残ってる。あなたが言いたいのは、酒場のカウンターに置いてある一輪のお花をレインのお墓に置くこと。そうでしょ?」
目を伏せつつ、声を震わせながらティーナはウィリアムへと答える。彼女を亡くした喪失感を、どんなに受け入れようとしても、やっぱり生前のレインに対する未練は心の奥深くに根を張っているのだから致し方ない。
しかし、それに対してのウィリアムの言葉は実に意外なものだった。
「確かに、それもあるな。だけど、それはこの村に帰ってきてからすればいい。そうだろ?」
「えっ……と____」
ウィリアムが何を言いたいのかが、すぐには呑み込めずにティーナは目を丸くする。
すると、それから少ししてウィリアムは照れくさそうにティーナの顔を見つめると、こう言うのだ。
「夫婦になったら、それを記念して、普段は行けないような場所に旅行に行くべきだ。そうは思わないか……ティーナ?」
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